W杯に向けて(祖国訪問記・番外編6)
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7月29日、平壌ホテルの近くのレストランで朝鮮大学校のサッカー特設班の学生たちとW杯の出場を決めた国家代表選手たちとの交流会が持たれた。そのことについては8月5日の朝鮮新報に記事を書いたので、読んでください。ここでは新聞で書ききれなかったことをお伝えしたい。この日、国家代表選手は20人が参加した。海外組(安英学、鄭大世、ホン・ヨンジョ)以外のほぼ全員と、キム・ジョンフン監督やコーチも顔をそろえるという超贅沢な交流会であった。
ひととおり取材を終えて食事をしていたときに、前に座っていたコーチに、「これからW杯に向けてどんな練習を行う予定ですか?」とたずねると、「それは秘密だ」と教えてくれなかった。(お前みたいな口の軽そうな人間に、そんな重要なことが言えるわけがないだろ)という表情であった。もっともである。「本大会の予選リーグではどの国と同じになりたいですか?」とたずねると、また、(そんなことも言えるわけがないだろ)という感じで「どこの国と当たってもいいように万全の準備をする」と答えてくれた。いろんな人の話を総合すると、ヨーロッパや南米などのいろんなサッカースタイルに対応するために、海外遠征も予定しているようである。当面の予定としては、8月末に台湾で東アジアサッカー選手権大会の予選に出場する。
国家代表選手たちは、7月27日の朝鮮U-20代表と朝大特設班の試合を観戦していた。朝大チームの評価をきくと、一致して言っていたのは、「技術はいいものをもっている。しかしまだまだ身体ができていない」というものであった。確かに、代表選手の身体を見ると、朝大生よりも一回り二回り大きくてがっちりしている。そしてみんな顔が精悍だ。もっと訓練を積んで国家代表に選ばれるようにと、朝大生たちを励ましていた。やはり、安英学、鄭大世選手の存在が大きく、在日同胞選手に対する見方が昔とは変わっているのがわかった。筆者が、「在日の選手が代表に選ばれるということは、そのぶん祖国の選手が選ばれないということですが」と、少し意地悪な質問をすると、「これからは祖国の選手と在日同胞の選手がどんどん競争すればいい。祖国の選手ももっと努力します」と、うれしい答えを返してくれた。そして、その言葉の裏には「そんな簡単には代表の座は譲りませんよ」という意地が見て取れた。
「アジア最終予選で一番思い出に残っている試合は?」という質問には、みんなが最後のサウジアラビア戦を挙げていた。これも当然であろう。ある選手は、引き分けた瞬間、「頭のなかが真っ白になった」と語っていた。「W杯での目標は?」という質問には、ベスト4という答えが一番多かった。「44年前のベスト8を超える」「南朝鮮がベスト4まで行ったから」というのが理由である。
レストランの女性従業員に、どの選手が好みかときいても、なかなか答えてくれない。一般論としてどの選手が人気があるのかときくと、ゴールキーパーのリ・ミョング選手の人気が高いとのこと。最後のサウジアラビア戦でゴールを守りきった姿が、祖国の若い女性たちの心を捉えたのであろう。
平壌から北京に向かう飛行機で、祖国のU-20代表の選手たちと同じになった。話を聞くと、中国で1ヵ月の強化合宿を行うのだという。未来を見据えた強化策を進めていることがよくわかった。それよりも感心したのは、選手が横にいたネパール人の家族と流暢な英語で会話をしていたことである。英語を話すということだけでなく外国人と対する姿が非常に垢抜けている。筆者の固定概念の枠から外れた若い世代が育っているのが、ちょっとした驚きでありうれしかった。(k)