谷根千
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「谷根千」とは東京の台東区や文京区に谷中、根津、千駄木を頭文字をとった地域雑誌。作家の森まゆみさん,、山崎範子さんはじめ4人の女性が1984年から作り続けた季刊誌です。いつか読んでみたいと思っていた雑誌の終刊をある日の朝刊で知り、台東区谷中で開かれた「谷根千工房がやってきた」展に行ってきました。
仕事場のある文京区白山から歩いていくと、歴史情緒あふれる根津や千駄木の町並みが楽しめます。実は、お世話になっている編集者が過去に千駄木に事務所を構えており、原稿を依頼に歩いたことがこの街を知った初めてのことです。懐かしい下町の風情に、東京にこんな街があったんだ、という新鮮な驚きが胸に渦巻きました。
失礼ながら「谷根千」を手にとったのは今回が初めてでした。開くとこの界隈で「谷根千」が買える地図が載っており、広告には地元のせんべえ屋さんやちゃんこ料理屋、本屋など。中には編集者の手書きの地図や文章もあり、雑誌業界がデジタル化している今だからこそ、手書きのぬくもりを感じられます。
編集はもちろん、雑誌を置いてくれる場所や、広告主を募る作業まですべて自分たちの力で作っていたそうです。編集者の皆さんはお子さんを抱えて、いや一緒に育てながら、雑誌を作ってこられたことは、森さんの著書で楽しく読ませてもらっていました。使命感もあったでしょうが、暮らしの中に雑誌作りが自然と溶け込んでいる、そんな様子が心地よく伝わってきます。
企画展の会場には、街に暮らすおじいちゃんやおばあちゃんの笑顔、歴史を感じる建物のスナップもありました。所狭しと積まれたバックナンバーにはのこの町で暮らした夏目漱石や森鴎外、そして、街の職人さんの素顔も…。
傍にはじっくりとメッセージを書き込むお年寄りの姿。その背中からは、惜しまれつつ雑誌が終わっていく寂しさが伝わってくるようでした。
「谷根千」のどこかに、声をかけてくれた人がいてくれたから、雑誌が作れたと書かれていました。雑誌への愛情はそのまま街への愛情だったのでしょう。お疲れさまでした。(瑛)