ピーマンおじさん
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たまに帰る実家は都心から離れた郊外で、まだ土が見えるのどかな場所だ。天気のよい休日の日、お花畑に囲まれた公園があると妹が誘ってくれたので、子どもたちと出かけた。大がかりな遊具はなく、小高い山がひとつ、目の前にはコスモス畑が、後ろを見ると畑を耕す人たちが見える。
「野菜持っていきませんか」。ベンチに腰かけていると50代ほどのおじさんが採れたてのピーマンを持ってきてくれた。小粒のものから長くごつごつしたものまで50個ほどはあっただろうか。保育園でピーマンを育てていた息子は大喜びで、手持ちのハンカチにどっさり包んではピョンピョン飛んだ。
その後もしばらくキャッチボールをして遊んでくれた。聞くと地元のタイヤ工場でF1用のタイヤを作っておられたという。今は働き先と自宅の中間地点にある小さな畑に寄って野菜の成長を見るのが毎日の楽しみで、聞くと、秋田から上京して40年近くなるという。私も2歳の頃からここに住み出したので、30年ほどは近所で同じような景色を見ていたんだ、と思うと親近感が増した。
息子はおじさんにすっかりなつき、車が見えなくなるまで手を振りつづけていた。そして、ピーマンが食卓にお目見えするたびにおじさんの話で盛り上がった。
昨日で食べ終えてしまったピーマン。最後の一つは、小さな小さな小粒だった。(瑛)