肝っ玉だったハンメ
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先週、オモニから一通のメールが入った。「ハンメが危篤」という内容だった。
その日はざわざわした気持ちで寝床についた。
翌朝、かかってきたオモニからの電話で飛び起きた。
亡くなりましたよ、という電話のコール。とても出るのがいやだった。
亡くなった事実が、私の頭の上をふわふわ行き来しているようで、落ち着かない。
久しぶりに再会したハンメの姿は、本当に眠っているようで、苦労した人生をすべて全うした、とても安らかな顔をしていた。
告別式で声を出して泣いていたオモニの姿を初めて見たかもしれない。私も当然ながら大泣きした。
父方のハルベ、ハンメはアボジが中学の時に他界しているためどんな人物だったのかはわからない。
幼い頃からウェハルベ、ウェハンメが、私の「ハルベ」「ハンメ」だった。
その二人が他界したいま、なんとも言えない気持ちになるが、
告別式を終えた夜、私はオモニとの会話の中で二人の人生を辿っていた。
オモニはハンメのいろんなエピソードを語ってくれた。ハンメはものすごく肝っ玉な女性だった。
そういえばと、ハンメが大切に保管してあった写真があるとオモニが言うので見ることにした。
ハンメが大切に保管していた写真は、5冊セットでまとめられた小さなアルバムだった。
とてもじゃないが多いとは言えないが、貴重な当時の写真を見て、ある一枚の写真がとても印象強く残った。
近所で撮影したのか、当時の道路を背景に30代~40代くらいのハンメが、満面の笑顔を浮かべている写真だった。
まさに肝っ玉母ちゃん、という感じのいい笑顔。幸せそうな笑顔だった。
ハンメは20歳のときに朝鮮から日本に渡った。
親が決めた結婚、相手の名前も顔も知らなかった。結婚当日、ハンメはハルベの顔をのぞきに行ったらしい。
結婚相手だったハルベは1歳のときに日本に渡ったので、朝鮮語はまったく喋れず、ハンメと会話も出来なかった。
若かりし頃のハンメを初めて見た。同一人物とは思えないほど、だいぶふっくらしていて健康的な女性だった。
ハルベは、まるで映画スターのように男前だった。いまでも十分に通じるほどの美青年だった。
結婚前日に顔をのぞきにいったとき、ハンメも「男前だ」と思ったのだろうか、そう考えると少し和む。
恥ずかしながら、ハルベ、ハンメの名前や、人生を知ったのは何年か前だ。
曖昧な記憶ではあるが、小学生のときに戦時中の話をしてくれたことがあった。
その時は注文したピザを食べながら聞いていたが、お皿に置いた記憶がある。
ハンメはトッピングしてあったアスパラがまずいと、手で器用に取って食べていた。
もっとたくさん話せば良かったと、いまさら後悔がつのるばかり。
地元に帰るなり、迎えに来てくれたオモニに「ハンメ元気?」と毎回呪文のように聞いていたが、それももう言えない。
ハンメは「ハンメ」という名前でインプットされていた。
それもおかしい話だが、改めて本名を知ったときの衝撃というか、そのギャップがたまらなくてすぐ覚えた。一生忘れないだろう。
それくらい可愛らしい、とても縁起のいい名前だった。
私が結婚して子どもが生まれたとき、女の子だったらハンメの名前をつける、と母に言ったら、私の姉も同じことを言ったらしい。
さて、果たしてどうなるか。(麗)
「ハルベ・ハンメ」論
(麗)さんのおうちでは「ハルベ」「ハンメ」とお呼びだったのですね。
わが家の父親はもう孫が10人いますが、けっして「ハルベ」でなく「ハラボジ」と呼ばせます。どうやら「ハルベ」が慶尚道方言だからのようです(父の故郷は忠清道)。母親は慶尚道出身なのでそのまま「ハンメ」と呼ばせていますが、まあ一世のこだわりなんでしょうね。
周囲の人がみんな「ハルベ」を使っているので、私も以前は「ウリマルでは普通そう呼ぶもんなんだろう」とばかり思っていましたが、よくよく考えれば在日社会では慶尚道が多数派。呼称のバックグラウンドに疎い3、4世が「ハルベ」をスタンダードと思ってしまってもおかしくはありません。
在日社会の密かな多様さ(?)を教えてくれた、父親のこだわりでありました。
Unknown
Unknown様
コメントありがとうございます。
その通り、ハルベ、ハンメは共に慶尚道出身です。なので家族や親族はそう呼んでいました。私の出身は大阪なので、特に慶尚道、済州道出身が多く「ハルベ・ハンメ」と呼んでいた人が多かったですね。
「サンチョン」も、私の家系では「サンチュン」と呼びます。これも方言なのだということを、学生時代に知りました。
そして、私は幼い頃「スンモ」を「ムンモ」と呼んでいたそうです…。
DNA
土曜日の午前中、ブログを拝見しました。なぜかわかりませんが涙がこぼれてきて、少しの間とまりませんでした。
私も小6のときに突然ソンセンニムからしらされてただただ呆然として、後から現実を受け入れたことを思いだしました。
ブログをみていて、ハンメ、オモニ、オンニ、そして(麗)さん、みなさんやっぱりかたい絆で結ばれていてそして同じDNAでつながっているんだなぁと一人で納得していました(笑)
そのうちハンメ、オモニにつづく肝っ玉になられることを楽しみにしています。
ちなみにうちも小さいときからやっぱりハルベ、ハンメですよ^^