桜とともに…
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突然の別れでした。病に倒れた上司はサクラ開花のニュースが流れるなか、1ヵ月前に亡くなった伴侶のもとへと旅立っていきました。
20代の頃に南で起きた大統領暗殺事件。その情報を掴めなかったことを悔い、朝鮮半島をめぐる情報を誰よりも早く察知し、その背景、展望を伝えることを決意した話は今もよく覚えています。在日朝鮮人に生まれた者として、同じ境遇に置かれた同胞たちに、そして同胞が暮らすこの社会に何を訴えればいいのか。日本と朝鮮との間に存在するさまざまな問題解決のためにはどのような道筋を立てていけばいいのか―。あなたに添削された原稿、突きつけられた問い、渡された本、つなげてくれた人たちを通じて、書くことの意味を考えつづけてきました。
「お前は感情を持った人間か―」。キツイことも結構言われましたが、その言葉は常に胸に突き刺ささり、自分の能力を見つめさせ、新たな課題を与えてくれました。
誰かの心に灯をともしてきたんだと、あなたが書き残した膨大な記事を思い返しながら、私自身もその一人だったことに気付きます。「彦」のコラムを同僚に配っていた人を出張先の広島で見かけたことがあります。私たちの仕事は、言葉にならない人たちの思いを汲みとることから始まると感じています。記者である前に、人間としての姿勢を問うていましたね。
数年前に「南北(朝鮮)の交流をまとめている」とライフワークへの思いを伝えてくれたことがありました。その本も読んでみたかった。そしてもっともっと一緒に新聞を作り、雑誌を作りつづけたかった。
一緒に働いた同僚に「泣いている場合じゃない」と叱られました。
悲しみに暮れている場合じゃないですね。託された思いを胸に書くことを続けていきます。あなたの分まで。(瑛)