「なあがら」フォーラム
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先週の土曜日、青年・学生実行委員会「なあがら」が主催する
「過去事清算」の現状とわたしたちの課題―日本の朝鮮植民地支配は何をもたらしたか―
というフォーラムが開催されました。
「韓国強制併合」から100年を迎えた昨年に結成された、青年・学生実行委員会「なあがら」は、
韓日両国の青年が共に植民地主義を克服していくことを目的とした活動を行っています。(「なあがら」とは、朝鮮語で、「良くなれ」「前進せよ」「痛みが治癒されよ」という意味を持つ)
この日は、日頃から歴史サークルの活動を行う韓国・イェイル女子高の生徒たちもはるばる訪れ、
同時通訳機を耳にかけ、話に聞き入っていました。
「過去事清算」という言葉は、韓国の民主化運動の進展とともに韓国で進められてきた歴史清算事業を指すもので、
韓国で使用されている言葉をそのまま直訳したもの。
ただ、このフォーラムでは韓国での取り組みに限定して使用するのではなく、
日本の植民地支配にまつわる歴史の清算のこと、すなわち日本政府による「戦後補償」や植民地支配責任の問題なども含めた
広義で使われています。
フォーラムでは、韓日(韓国人、日本人、在日朝鮮人)の若者たちがそれぞれの研究テーマを発表しました。
発表は「日本における戦後補償の現状と課題」(千地健太・一橋大学大学院博士後期過程)、
「韓国における過去清算の成果と課題」(金賢泰・韓国・フォーラム「真実と正義」事務局長)、
「日帝末朝鮮人強制動員の形態と方式」(金鎭英・韓国・慶熙大学校史学科博士課程)、
「継続する植民地主義と在日朝鮮人」(金優綺・在日朝鮮人人権協会)の4編でした。
在日朝鮮人人権協会の金優綺さんの発表では、
いま問題の「高校無償化」制度からの朝鮮学校除外問題や「在特会」によるヘイトクライム、
そして2012年から導入される「みなし再入国許可」(~永住資格を持つ在日外国人の日本への再入国許可を一定期間免除するというものだが、朝鮮民主主義人民共和国の旅券所持者はこの対象から除外されるという差別的な制度)などの日本における差別に加え、
朝鮮籍者への韓国入国拒否問題や、朝鮮総聯と関わる活動をしている韓国籍者へのさまざまな嫌がらせなど、韓国政府による在日朝鮮人への差別も言及されました。
そして中でも、「日本における『朝鮮』嫌悪の風潮は、日本人だけではなく在日朝鮮人自身の心をも蝕んでいる」という一節が、
深く心に残りました。
植民地支配がもたらした南北分断によって、物理的な分断のみならず、
私たち在日朝鮮人の精神の中にまで分断が持ち込まれていることを自覚しなければならないと思いました。
5時間にも及ぶ長丁場となりましたが、それでも時間が足りないほど、内容の濃いフォーラムでした。
それほど、「過去事清算の現状と私たちが取り組むべき課題」というフォーラムのテーマは複合的な視点を要するもので、
今こそじっくりと検証しなければならないということの表れだと思います。
では、何をもって「過去事清算」は決着をみるのでしょう。
過去清算の大きな目的は、徹底的な真相究明を通じた加害者への処罰、
そして被害者に対する賠償と補償をすることで同じ過ちがふたたび繰り返されないようにすることです。
きちんとした清算がされていないがために、解放から65年という年月がすぎてもなお、
加害と被害の基本的な構図は変わっておらず、私たちは繰り返される歴史に向き合わざるを得ないといえます。
喫緊の課題である「高校無償化」問題なども、まさに過去清算が成されていないという歴史の脈絡から見つめる必要があります。
日本の朝鮮植民地支配と南北分断は切り離して考えられないことです。
フォーラムのまとめでは、南北分断に対する責任を日本社会が自覚しなければならないし、
それを自覚できていない日本が東アジアの連帯をうたうこと自体おかしいという指摘がありました。
私を含む同世代の若い人たちにも、もっとこの問題について考えてもらえたらと思います。
そうでないと、薄っぺらい「未来志向」「和解」論などに淘汰されてしまうかもしれないからです。
現に先述の千地健太さんの研究発表の中では、
「過去の清算をめぐる日本人の意識は後退している」という指摘がありました。
(当時の細川護煕首相が過去の侵略行為や植民地支配を謝罪した1993年の世論調査では、かつての戦争の侵略性を認め、補償問題で何らかの形で要求に応じるべきだとする人が多数派を占めたものの、韓国併合100年の2010年の世論調査では、逆転現象が起こっている)
時代は良くない方向へと逆行しているのです。
歴史を忘却する―そこに待っているのは、歴史問題の解決などではなく、誤った歴史の再生産、ではないでしょうか。(里)