70歳の本名宣言
広告
京都へ来ています。各地で台風の被害があったようですが、関東や東海地方に比べると京都はわりと穏やかな空模様でした。
この間、本誌の取材とは関係なく、NPO法人京都コリアン生活センター「エルファ」にお邪魔しました。
「エルファ」は、在日1世たちの受難の人生を、笑顔と喜びに満ちた人生に変えたいという想いから2001年に設立された介護福祉施設で、現在では高齢同胞支援の他にも障がい者支援、子育て支援、多文化共生事業、歴史保存事業など活動の幅を広げています。
私が訪ねた日は20名ほどのハルモニたちがいらっしゃいました。おやつの時間で、ハルモニたちはおしゃべりをしたりマッサージをしてもらったり、はたまたヘアカットをしてもらったりと、思い思いリラックスする姿が見られました。ハラボジがご不在だったのは、ハルモニたちが男性と一緒に過ごすのを嫌がることから、男女で曜日を分けているため。スタッフの方は、家父長制の時代を生きたハルモニたちには過去のトラウマが少なからず残っているからではと、おっしゃっていました。また、女性より男性の生存者数が圧倒的に少ないことから男性利用者が少ないという理由も。男女混合の曜日もあるそうで、一緒の方が活気があるとも聞きました。
おやつのあとはゲームの時間。チーム対抗戦のボーリング(お手玉を投げて、重しの入ったペットボトルを倒すというもの)で盛り上がりました。そして最後はやっぱり喉自慢大会。朝鮮民謡を歌い、オッケチュムを踊るハルモニたちはとても楽しそうでした。私も歌を請われ「蜜陽アリラン」を歌いました。
本題に入ります。スタッフの方から聞いたお話です。
エルファでは同胞高齢者だけではなく、日本人や外国人の高齢者も同じように受け入れています。
1ヵ月ほど前、病院で「多文化交流が必要」と診断されたあるおばあさんが医師の紹介でエルファにやってきたそうです。日本名を名乗り、日本人としてエルファに迎え入れられたおばあさんでしたが、あるとき自分が朝鮮人であることを打ち明けてくれたそうです。「実は朝鮮人やねん」そうおっしゃったそうです。幼い頃両親を亡くしたハルモニは、7歳で日本人の家に里子に出され、15歳のとき養父母の勧めで35歳の男性と結婚。居候の身で拒否することなど到底できなかったそうです。それから半世紀以上、朝鮮人であることをずっと秘めてきたハルモニ。その痛みはどれほどか、容易に想像などできません。そしてハルモニから名前を奪い、日本人として生きることを強いてきた日本社会の罪は断じて許されるものではありません。スタッフが朝鮮名を教えるとハルモニは、「アボジがそう呼んでいた」といって大粒の涙を流したそうです。
東京の同胞介護施設でも聞いたことがありますが、高齢同胞、とりわけ1世の中には生活や文化の違いから日本の介護施設になじめない方が多いそうです。今回エルファを訪ねて、1世たちが自分らしくいられる同胞介護施設の存在意義を改めて実感することができました。また、エルファでは年間約10人の1世同胞が亡くなっていると聞きました。設立から10年間で延べ150人が亡くなったそうです。異国の地で計り知れないほどの苦労をして民族の尊厳を守ってきた1世同胞たちのお手伝いをすることは、私たち若い世代の義務でもあると思います。日常的に携わるのは難しいかもしれませんが。
エルファで自分の居場所を見つけたハルモニは「やっとぐっすり眠れる」といっているそうです。(淑)