柳美里さんの新刊「ピョンヤンの夏休み」
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月刊イオに2010年から、作家の柳美里さんによるエッセイ「ポドゥナムの里から」を連載しています。月刊イオの数多い連載のなかでも特に読者から好評をいただいている読み物です。
その、柳さんが昨年12月に「ピョンヤンの夏休み」(講談社)という、祖国・朝鮮民主主義人民共和国を3度訪問した日々を綴った旅行記を出版されました。月刊イオに掲載した原稿も加筆され掲載されており、私もさっそく読みましたが、素晴らしい内容で、途中でやめることができず一気に読んでしまいました。
柳美里さんは毎月、「ポドゥナムの里から」で、日常生活で起こったことを書いていますが、読んでいると、作家という職業が精神的にも肉体的にも非常にハードであることがうかがい知れます。一つの単語、一つのセンテンスを書くのにも、常に生みの苦しみがある。体調が思わしくないということも何度か書かれていたりもします。
しかし本を読むと、祖国訪問中、柳さんの体調はすこぶる良いようです。そして、次のように書いています。
「こころが祖国に根を生やしている――、からだがこころと離れて、鎌倉に在ることが不自然な気がした。帰宅した安堵感よりも、ここに存在しているわたしは、あそこには存在していないのだという欠落感のほうが大きかった。」
引用した文章は、柳さんが1回目の訪問を終えたあと、月刊イオの2009年2月号に書いてもらった訪朝記にも出てくる文章で、これをはじめて読んだときに、わたしの心の中でいろんな思いが渦巻きました。
「北朝鮮」に対する悪宣伝が充満し最悪のイメージがある中で、柳さんはなぜ朝鮮民主主義人民共和国を「祖国」と呼ぶのだろうか? 「こころが祖国に根を生やしている」という柳さんの思いはどこから来るのだろうか?
そして、日本の週刊誌やイオに書いた柳さんの文章を読んでいるうちに、無性に朝鮮に行きたくなり、わたしも2009年6月に祖国を訪問したのでした。
今回、「ピョンヤンの夏休み」を読み、柳さんの思いがなんとなくわかったような気がしました。
「ピョンヤンの夏休み」には、柳さんが朝鮮で出会った人々のことが、極めて自然に普通に優しいまなざしで描かれています。同時に、柳さんの家族やこれまでの人生で深くかかわりのあった人たちも描かれるのですが、祖国の人々が「特別なもの」としてではなく、同じように描かれる。
3回目、家族とともに訪朝した時に通訳をした金さんと、柳さんの息子の丈陽くんとのやりとりの部分は、特に印象に残りました。
1度目の訪問の部分で、柳さんは次のように書いています。
「けれど、一度だけの祖国訪問で、この国と、この国のひとびとに別れを告げるつもりはない。わたしは、この国で働いてもいないし、学んでもいないし、暮らしてもいない。だから、ほんとうの意味では、この国を知ることはできないのだと思う。けれど、知らない、では済まされない。わたしは、この国を、この国のひとびとを、知りたい、と思う。何故なら、わたしにとって、この国は祖国なのだから――。」
「ピョンヤンの夏休み」を読んで、また祖国に行きたくなりました。近々、必ず訪問したいと思います。皆さんもぜひ手にとって読んでいただきたい。必読の一冊です。
さて、月刊イオの2月号が完成しました。先週のブログにも書いたように、金正日総書記逝去についての特別号です。朝鮮民主主義人民共和国で行われた追悼行事や在日同胞たちの追悼の模様を伝え、金正日総書記の業績を振り返っています。
特別企画は「1000回目の水曜デモ」。昨年12月、日本軍「慰安婦」制度の被害者であるハルモニたちと支援者らによる水曜デモが1000回を迎えました。ソウル、東京で行われた1000回目の水曜デモの様子を伝え、日本軍「慰安婦」問題とは何かを解説する内容となっています。
その他、残念ながら1回戦で負けてしまいましたが、3年連続全国大会出場を果たした大阪朝高ラグビー部の試合について、留学同大祝祭・総合文化公演「私たちの“ウリハッキョ”」の模様を掲載しています。
金正日総書記逝去に関する内容に多くのページを割いたため、通常の連載を何本か休みました。申し訳ありません。
月刊イオ2月号をご愛読ください。(k)
Unknown
イオ二月号、じっくりと読みました。涙なしには読めませんでした。悲しみの涙、憤りの涙、感動の涙。三度泣いてしまいました。
「ピョンヤンの夏休み」は買い置きしているのですが、もったいないので、まだ読んでいません。読む時が愉しみです^^
今年は素晴らしい年となりますように!
杉さまへ
コメント、ありがとうございます。本当に今年が素晴らしい年になればいいですね。
Unknown
先ほどツイッターを覘いたらある南からの留学生(?)がこの本をハングルに翻訳して出版し、南の人々に読ませたいとつぶやいていました。実現すれば嬉しいですね。応援したいです。(出版社も自分で探すと言ってました。本気なようです。)