その眼差しから目を逸らすことは許されない
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昨日のブログで(瑛)さんが朝鮮学校に対する「高校無償化」制度適用問題に関するエントリーを上げていたが、私も同じく、思うことをいくつか書きたい。
「高校無償化」制度が施行されて間もなく2年を迎えようとしている。しかし、周知の通り朝鮮学校に対する適用はいまだなされていない。朝鮮学校だけが選択的に排除されている。
高校授業料無償化・就学支援金支給制度の法的根拠となる「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(略称=高校無償化法)は2010年3月16日に衆議院で可決、同月31日には参議院で可決・成立し、4月1日 から制度が施行された。ただ、09年9月の民主党政権樹立後、法案の国会上程がスケジュールに上る同年末から「朝鮮学校外し」の流れは政治とメディア、排外主義勢力によって公然と進んでいた。
時の鳩山政権は無償化の対象に朝鮮学校を含めることの是非について、「第三者機関」を設置して対応を検討するという噴飯ものの策をとった。菅直人政権発足後の同年11月には延坪島砲撃事件を受けて朝鮮学校への制度適用審査プロセスを停止。その後、菅首相は昨年8月29日、停止していた審査手続きを再開させるよう文科省に指示したが、現在まで進展はない。
この間、度重なるプロセスの引き延ばしや停止に直面しながらも、学校側や生徒、保護者、そして支援者らは各所への要請行動、署名運動、集会を数多く行い、生徒たちによる国賠訴訟も視野に「無償化」適用実現に向けた取り組みを続けていた。(このあたりの経緯については、http://reliance.blog.eonet.jp/default/files/keii.pdfを参照)
朝鮮学校が日本の高校に類する教育課程を満たしていること、制度の趣旨からも適用は当然であること、同制度からの除外が国際的な人権条約に照らしてみても明白な差別であること等々、適用は当然であり排除の不当であるということはさまざまなところで論じられてきたし、このブログ上でも何度も言及しているので、繰り返すまい。(例えば、http://w.livedoor.jp/mushokamondai/ http://www5f.biglobe.ne.jp/~wasio/QandAmusyouka.htmなど)
「無償化」適用基準は、教育課程が日本の高等学校の課程に準じているかどうかで、教育内容は問われない。朝鮮高等学校は基準を満たしているので、適用がここまで先延ばしにされているのは日本政府側に問題があるということだ。しかしこの間、政治家やメディアからはこの問題を自らの問題として考える声は悲しいかなほとんど聞かれなかった。代わりに、全てを朝鮮学校側の問題として語る声と、「黙って言うことを聞いたら施しを与えてやる」といったマジョリティの傲慢な物言いが世間を覆った。
政治、メディア、そして社会が一体となった責任回避(放棄)。かくして差別的状況に対する日本側の責任は免罪され、在日朝鮮人の側に向けられる眼差しだけが厳しくなり、マイノリティを制度的に疎外する状況はますます強化されている。
朝鮮学校に対する「高校無償化」適用をめぐる問題は政争の具、外交的駆け引きのカードと化し、さらには補助金支給問題とともに朝鮮学校に対する圧力の道具として機能しているのが現状だ。「不法国家・北朝鮮」と関係する朝鮮学校およびその運営に携わる総聯が「パブリック・エネミー」(公共の敵)と名指しされ、社会の沈黙の同意の下で排除されるという「ディストピア的状況」が出現するのもそう遠い未来の話ではないかもしれない。
民主、自民、公明の3党は14日、「高校無償化制度」の「政策効果の検証と必要な見直しの検討」について今後3党間で協議を始めるとした確認書に署名した。「見直し」は昨年8月の3党合意にもあるが、その内容が気になるところだ。ただ朝鮮学校にとって「無償化」制度とは、映画「キッズリターン」(北野武監督)の中の台詞を借りるなら、「バカヤロー、まだ始まってもいねえよ」なのだ。
3月初めには各地の朝鮮高級学校で卒業式が行われる。このままでは、今年もまた制度の適用を得られず卒業する生徒たちが生まれる公算が高い。
一貫して朝鮮学校に対する「無償化」適用に反対してきた人々には是非一度、生徒やその保護者、学校関係者の前に立っていただきたい。排除され虐げられ蔑まれ、傷ついた者たちの眼差しが彼らを射抜く。その視線には怒りと悲しみ、侮蔑が込められ、ある種の諦念も混じっているかもしれない。そこから目を逸らすことは許されない。
「あなたにはその『眼差し』を闇の中に閉じ込めておく権利はない」―テオ・アンゲロプス監督「ユリシーズの瞳」より
Unknown
本来なら、歴史的経緯を鑑みれば、在日朝鮮人に対する民族的教育には特段の優遇と保障がなされるのが当然ですが、そこに想いが至らないとしても、自国の作った法に適用させるということは最低限の義務であるわけで、「黙って言うことを聞いたら施しを与えてやる」的発想が、どれほど無法・不法であり倒錯しているのかさえ分からなくなっている現状は、まさに「異常事態」としかいいようがありません。
この記事を「朝鮮学校無償化問題FAQ」からリンクさせていただきます。