朝鮮大学校美術科と武蔵野美術大学の交流
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本題に入る前に、先週2月28日に起こった強制捜索について。
事件については私がブログでアップしたが、事件当日だったのでまだ理解不足の部分があり、いくつか補足したい。
まず、警視庁公安部による強制捜索は、朝鮮出版会館に事務所がある在日本朝鮮人科学技術協会(科協)と在日本朝鮮人体育連合会(体連)、そして中外旅行社と総聯板橋支部の4ヶ所で行われた。すべて「外為法違反」だったため同じ同胞のパソコン会社関連で捜索が入ったと思っていたが、科協と、他の3ヶ所は別のパソコン会社。
もちろん、科協も他の3つの団体・会社もそれぞれのパソコン会社とはまったく関係がない。体連の理事長は記者会見で、「初めて朝鮮を訪問する同胞に、同じ時期に体育関係者が訪朝するから何かあれば頼ってくるように伝えただけなのに、これが何の罪になるのか」と訴えている。中外旅行者も航空券を手配しただけだ。航空券を手配した客が何か「犯罪」を犯したからと日本の旅行会社に強制捜索が入ることはありえない。それも3年前のことである。
また、事件後の日本の報道を見ると、科協への強制捜索については報道しているが、他の3ヵ所の強制捜索はまったく報道していない。マスコミ自らが報道を操作することで在日朝鮮人弾圧に加担していると言わざるをえない。
強制捜索に関する朝鮮新報の記事はこちら。
http://jp.korea-np.co.jp/article.php?action=detail&pid=53026
それでは、今日の本題。
昨日、(麗)さんが書いていたように、5日から始まった朝鮮大学校美術科の43期卒業制作展「CHODEMI Vol.2」を小平市にある朝鮮大学校まで観にいった。毎年行われている朝鮮大学校美術科の卒業制作展で、いつもはスルーするのだが、今年はぜひ取材に来てください、と主催者の卒業生から編集部の(麗)さんに依頼があった。今年の卒業生は積極的な宣伝活動を繰り広げてきた。イオ編集部への取材要請もそうだが、ツイッターで幅広く呼びかけたり、素敵なポストカードを作ったり。こういう積極さ、イオ編集部も見習わないといけない。
また、イオ編集部の(愛)さん、(麗)さん共に、朝大美術科の卒業生。イオにとって美術科は付き合いが深いということもあり取材に出かけたのである。
私が朝大内の会場に入ると、朝大の真横にある武蔵野美術大学の先生と学生たちが来場しており、作品を前にあれこれと話をしていた。袴田京太朗教授とゼミの学生たちだった。
制作した朝大生本人から作品の説明を受け、作品について教授や武蔵美大生があれこれと講評する。ちょうど、鄭さんが自分の作品「祖父という人」(油彩)について説明しているところだった(写真)。鄭さんは、「ハラボジという他者を描くことで自分のアイデンティティを探りたかった。ハラボジの生きてきた世界と自分が生きている世界はあまりにも隔たりがある。手が届かない。それをハラボジの前に花を描くことで表現した」と語る。袴田教授や学生たちが作品のテーマや技術的なことについて質問したり感想を述べたりアドバイスしたりする。
日本の学生は、在日朝鮮人の歴史に対する知識がないであろうから、作者が言わんとすることがどれだけ理解できたのかわからないが、それでもこのような場が、大きな第一歩となっていること、お互いの理解を深める貴重な体験になっていることが、それぞれの表情をみていると確信することができた。
袴田教授に後で話を聞くと、「数ヶ月前に偶然交流が始まった。それまでは朝大に美術科があることも知らなかった。朝大の学生たちの作品は発想も豊かで技術も高い。何より個性的な作品が多いことに驚いた。そして、作品のテーマが自分たちの置かれている立場に自覚的だ」と評価していた。
今年の卒業制作展には、7人の卒業生による20の作品が展示された。袴田教授は、正統派の写実的な絵がほとんどなのではないかと思っていたそうだ。私も最近の朝大生の作品を見ると、過去のそれと随分と様変わりして驚かされる。
会場には卒業制作展をツイッターで知ったという三潴末雄さんも訪れていた。三潴末雄さんは、ミヅマアートギャラリーという有名なギャラリーのディレクターだ。三潴さんも「朝鮮大学校に美術科があることを知らなかった」と言いながら、「在日の作品も見てきたが、日本の大学の美術科で学んだと思っていた。美術はコミュニケーションを取るのに一番いい。日本の中にこのような空間があることがすごく重要だ」と語っていた。
袴田教授は「お隣さん同士、交流しないほうがおかしい。今後、合同展を開くなどいろんな形で交流を深めたい」と言う。また、ツイッターでも感想を発信していた。
強制捜索の後だっただけに、このような個々の小さな交流から理解を深める重要性をより強く実感したのであった。卒業制作展に招待してくれた朝大生たちに感謝したい。(k)