映画「KOREA」を観て
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20日に千葉で行われた映画「KOREA」の記者会見と試写会に行ってきました。「KOREA」は、1991年の千葉世界卓球選手権大会で実現した北と南の統一チームの活躍を描いた映画です。下が記者会見での写真です。監督はじめ、主役を演じたハ・ジウォンさんとペ・ドゥナさん、そして当時のチームのエースだったヒョン・ジョンファさんらが来日しあいさつしました。
映画は非常に期待していたのですが、結論から言うと個人的にすごくがっかりしました。この先は、ネタばれになることを書くので、内容を知りたくないという方は読まないでください。
まず、描かれている内容が事実と違う部分があまりにも多かった。統一チームを結成した、千葉で大会があった、女子団体戦で中国を破り優勝した―大げさに言えば、事実と合っていたのはこの3つだけだったと言えるほどです。統一チームを題材にしたまったくのフィクション作品。もっと言えば歴史を歪曲していました。
いくつか例を挙げてみましょう。当時、大会期間、ずっと現地で取材した一人として指摘したいと思います。
1、映画では、団体戦のダブルスのペアを最初はリ・ブニとユ・スンボクが組むことになっていますが、事実は最初からリ・ブニとヒョン・ジョンファがペアを組んでいます。
2、映画では団体戦で途中1回負けますが、事実は1回も負けずに決勝まで進みます。
3、団体戦の試合の進め方が、シングルス戦を4回戦って最後にダブルス戦が行われるように描かれていますが、事実はダブルス戦は3回目に行われます。
4、北と南の選手が乱闘騒ぎを起こし新聞で報じられるという場面がありますが、そんなことはありませんでした。
5、リ・ブニが倒れてヒョン・ジョンファが病院に連れて行きますが、そんなことはありません。また、外国人選手二人だけで病院に行き誰にも知られず治療を受けて帰ってくるというのはあまりにも現実離れしています。
6、団体戦が行われている期間に選手たちが休みをもらって遊園地に遊びに行きますが、実際は毎日試合があり休みなど取れる日はありませんでした。
7、決勝戦で優勝を決めたのはリ・ブニ、ヒョン・ジョンファペアではなく、シングルスのユ・スンボクでしたし、ユ・スンボクが最初緊張していて実力が出せなかったように描かれていますが、まったくそんなことはありませんでした。
8、大会終了後、上の指示によって北の選手たちがそそくさとバスに乗って帰るように描かれていますが、事実は最後の宴会までちゃんと参加してチームは円満に解散したし、バスに乗っていたのが南の選手でそれを見送ったのが北の選手でした。
最大の歪曲は、準決勝を前に北側がいちゃもんをつけて選手を引き上げさせ試合に出させないというくだりです。まったくのでたらめです。北の人たちの描き方もステレオタイプでいやらしくフェアではありません。ついでに言うと、中国選手の描き方も気分が良くありませんでした。
映画では、決勝戦の朝、ヒョン・ジョンファら南の選手たちが雨の中に座り込み必死に訴えて、それに心を動かされた北の監督が党の監視役を振り切って試合に出るというストーリーになっています。作者の陳腐な「統一観」を見るようでした。
劇映画だから多少の脚色はありえます。最初は心が離れていた南北の選手たちが最後には心をひとつにするという部分をオーバーに描いたり、恋愛的なものを挿入するのも良いでしょう。でも、根本的なところを変えてはいけません。後で、若い人たちに話を聞くと、「本当だと思って見ていた」と話していましたが、当時を知らない人たちが観ると、映画で描かれていたことが本当だと思ってしまい、歴史が間違って伝わってしまいます。あの時一緒に戦った北の選手や役員の人たちが観たら怒るはずです。このような映画を作るのなら、最低限、完全なフィクションだとことわって、選手名も変えて作るべきでしょう。
統一チームが結成された期間は、在日同胞をはじめすべての同胞たちにとって、夢のような素晴らしい日々でした。無敵と言われた中国女子チームを破ったときは、統一がいかに民族にとって大切で素敵なことなのかが現実のものとして目の前に示されたのでした。表彰式で、「アリラン」が流れるなか統一旗がゆっくりと上がる姿、そのときの会場の興奮、涙する応援団、そのような光景は21年たった今も忘れることができません。
事実を歪曲しないでも、いや、事実にそって描いてこそ、感動的な作品になったし、真に統一を訴える映画となったのではないでしょうか。
このような作品になってしまったのは、作り手の考え方や技術の反映なのでしょうが、根本的には、分断の現実がこのような作品を作らせたと言えるでしょう。(k)
Unknown
的確な批評。まったくその通りです。
期待していた映画があれではと、わたしを含め、白けた在日同胞が多かったのではないでしょうか。
ステレオタイプは、娯楽作品であっても、堕落を呼びます。
なるほど
事実を参考にした映画が、大きな脚色を施して事実とは異なる展開をもたらすこと自体は直ちに悪いこということはありませんが、論評を読ませていただく限りでは、せっかくの題材を貶めて偏見を煽ったことに間違いはなさそうですね。残念です。
ヨンチさまへ
コメント、ありがとうございました。白けた同胞も多かったですが、「良かった」という同胞もいて、戸惑っています。若い人が言うならまだしも、当時を知っている人が言うのを聞くと、ちょっと悲しくなります。
Rawanさまへ
コメントありがとうございます。
本当に、せっかくの題材を貶めており、統一チームを冒涜する作品だと思いました。
Unknown
「統一を阻んでいるのは北の政権」と言わんばかりの描写でしたね。