ニコンを狂わせたものは何か
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ご存知の通り、7月9日から新しい在留管理制度が始まった。これについての詳しい内容や問題点は、月刊イオの7月号で特集しているので、ぜひ読んでいただきたい。
私個人が心配しているのは、「非正規滞在者」といわれる人々が新しい在留管理制度のもとでどのような境遇に置かれるのかということ。
「カナロコ」というサイトに次のような記事が載っていた。
「新たな在留管理制度の導入を9日に控え、外国人を支援するNGO3団体が7日、東京都内で記者会見した。研究者など7人が参加。新制度では、非正規滞在の外国人が「存在しない者」として扱われることになり、参加者らは「非正規滞在者はまじめに働き、暮らしている。在留特別許可を認めて」と訴えた。「外国人人権法連絡会」「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)などの主催。」http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1207080004/
一方、産経新聞の記事の見出しがこれ 「不法滞在者減らせ! 外国人登録制度廃止 在留カード制度スタート 」 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120709/trl12070913000001-n1.htm
私も実際に当事者たちに取材し、月刊イオで報告したいと思っている。
さて、ここからが本題。今日もまたニコンサロンでの写真家・安世鴻さんの写真展「重重~中国に残された朝鮮人元日本軍「慰安婦」の女性たち」について書きたいと思う。これまでの経緯などについては、過去2回の私のブログ記事を参照してもらいたい。
http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/42f2ca0e3ff867461beffb641a976275
http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/7f1292a8860a55939ecdecbc7a5a5904
写真展は、結局、7月9日まで予定通り行われた。しかしニコンは、写真展を開催させるようにという裁判所の決定を不服とし異議を申し立て・抗告し、開催中も最後までさまざまな嫌がらせ行いついに写真展を「正式な展示」とは認めなかった。
日本のマスコミは、今回の事件を「表現の自由」の問題として捉え報道しているものが多かったが、問題を故意に矮小化しているとしか思えない。ニコンが中止させようと躍起になったのは元日本軍「慰安婦」の写真だったから。日本の国家犯罪、非人道的な所業を告発する写真だったからだ。
写真展は、安さんの要請を受けニコンが審査会を開いて展示を決定したものであり大阪でのアンコール写真展まで要請していたということだから、ニコンは最初は「ぜひやってください」という立場だった。それが一方的に中止を告げるという180度の立場の変化を見せた。ニコンが自ら考えを変えたのではなく、外部の圧力によって変わったのは100%明らかだ。
右翼や排外主義者たちからネット上で「反日的な企画」「ニコン製品は買うな」などの書き込みがあり、「ニコンはトラブルが起こるのが面倒だから中止しようとしたのだ」という見方もあったが、そんなに単純なものではない。
常識的に考えれば、安さんの異議申し立てが東京地裁で認められた段階で、渋々ではあっても普通に写真展を行うものであろう。それを即日に異議申し立てを行いさまざまな妨害を行ったのは「トラブルが面倒だから」というレベルを超えている。ニコンの今回の異常な行動については、安さんが9日にニコン側に渡した抗議文(ブログの最後に転載)を見てもらえばわかると思う。
今回の事件でニコンという企業は、非常に大きく信頼を失い大きく傷つき大きな損失をまねいた。しかし甚大なマイナスにもかかわらず、ニコンは中止のために血眼になった。それほどの力がニコンに働いたのだ。「絶対的な上位者からの命令」や「強力な社会的な圧力」であったことは想像に難くない。ニコンの中止にするための執拗な行動は、中止にすることが目的でもあるが、「私たちはこれほど中止にするために努力しました」ということを、中止を強要した者たちに見せて許しを請うためのアリバイ作りだったと思っている。
今回の事件は、30年前だったら考えられないものだ。日本は90年代に入り、戦争のできる「普通の国」になるため、次々と手を打っていく。そのひとつが、過去の侵略と植民地支配などの国家犯罪を覆い隠し捻じ曲げることだった。その中で、「中止を強要する者たち」らの勢力が大手を振るようになっていった。
ニコンをしてここまで異常な行動をとらせるほど、日本社会は異常になり右旋回してしまったということなのだろう。
在日朝鮮人が賃貸住宅を借りようとしても不動産屋でことごとく断られるといった個人レベルのこと。そして、金剛山歌劇団の公演でも、右翼団体の抗議を恐れ、仙台市民会館での公演を市が使用取り消しにしたことや岡山市の文化施設「岡山シンフォニーホール」での公演を施設が使用取り消しとしたこと(共に2007年)。こういったことはこれまで日常的に起こっていた出来事だが、多くの日本人は知らないまま過ごしてきたことと思う。
今回のニコンの事件は大きく報じられ多くの人が知ったわけだが、根っこは同じである。 今後、ニコンは同様の写真展示の要望があっても、審査すら受け付けないであろう。今回の事件を契機に、排外的な現象が正されるのか、それともニコンと同じような対応をする会場が増えるなど日本社会の排他性、排外主義、歴史歪曲などがもっと助長されるのか。
安さんのニコンに対する抗議が広く共有され広範な抗議の声があがらなければならないが、いまのところそういう気配はない。私はたぶん、後者の助長される方向に進むのだと思っている。
安さんの写真展が無事に開催されたと喜んでいる事態ではない(k)
抗議文
株式会社ニコン 取締役社長兼社長執行役員 木村眞琴 様
「重重‐中国に残された朝鮮人元日本軍「慰安婦」の女性たち」安世鴻写真展に対する貴社ニコンの不当な一方的中止通告と写真展妨害などの行動に抗議します。
写真展の準備及び進行において、この写真展に協力する写真家たちを無視した処置と展示進行の妨害に対する全てのニコンの行動は「写真文化向上」というニコンの理念に反する行動であり、写真家と写真愛好家に大きな失望を与えた。
ニコンは裁判所の3度にわたる施設使用の「仮処分」の結果に従うのであるという理由と、施設の管理権限でもっていつでも写真展を中止する事が出来ると威嚇した。
また、自ら選んだ審査員によって決定された写真展を中止・妨害する逸脱行為は、全世界を見ても探すことのできないものてあり、写真家に過大な損害を残した。
仮処分手続きの進行と展示進行においてもニコンは不道徳な弁護士を雇い、写真展を妨げ写真家と観客の人権を侵害した。写真展の準備段階からニコンは弁護士をサロン内に常駐させ、写真家安世鴻の一挙一動を監視し、誰に会いでどんな話をするのか、撮影・録音を行っていた。
さらには、安世鴻のサロン外の行動にまで干渉し、他者との会話を横で監視するなでど、深刻な人権侵害を行った。また、老若男女を問わず全ての来場者に対し、鞄の中をチェックするなでどの行為は深刻な人権侵害である。
ニコンは写真展開催初日から今日まで、報道関係者のサロン内での写真、ビデオ撮影を禁止するなど、取材活動を妨害し、国民の知る権利をも侵害した。また、安世鴻自身によるギャラリー内の写真撮影を禁じるなど、不可解な行動を行った。
写真展が行われている新宿エルタワービル内部で、この写真展を知らせる告知を掲示せず、ホームページでも通常の案内表記がなされないまま、写真展来場希望者に混乱を引き起こした。写真展の基本となるパンフレットの配置において、その数と種類を制限し販売と配布を禁止するなでど鑑賞者たちの知る権利と写真家に深刻な損害を与えた。
このような一連の一方的姿勢、対話拒否は一連の混乱と問題を引き起こし、写真家とその家族、周関係者の人々に多大な精神的被害と物質的被害を与え続けている。ニコンはこれに対する責任をとり、反省すべきであり、以下の内容を履行する事を要求する。
1. ニコンは、安世鴻写真展開催に対する自らの説明・対応の過ちを認め、全世界の写真家たちに公開謝罪すること。
2. ニコンは、「表現の自由」を抑圧する行為を中止し、ニコンサロンで行われる写真展に対して同じような対応・行為をしないことを約束すること。
3. ニコンは、安世鴻の大阪アンコール写真展(9月13日~19日)が予定通り行われるよう積極的に協力すること。
4. ニコンは、一方的な写真展取り中止通告と妨害により生じた精神的、物理的被害を安世鴻に対して補償すること。
ニコンは、上記の項目を実践するとともに、「写真文化の向上」に向けて、誠実な対応をすることを望む。
2012.7.9. 安世鴻
ここで「抗議文」の朝鮮語も読めます。http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/9ec49ea43121c62edfa32c02004abb77
Unknown
そうですね。悲しい話しです。
今回の事に限らず、日本という国が少しずつ経済的に力を無くし、政治力の低下という事実から目を背けている気がします。
Unknown
>ニコンの中止にするための執拗な行動は、中止にすることが目的でもあるが、「私たちはこれほど中止にするために努力しました」ということを、中止を強要した者たちに見せて許しを請うためのアリバイ作りだったと思っている。
まったくそのとおりですね。
そして、ニコンという世界市場を相手にしている企業であっても、これほどの「中止・拒絶努力」が強いられるのだという印象を他の企業や団体にに与え、萎縮させることに繋がることについての「罪」をもニコンは負わなければいけません。
(余談、こちらのパソコン環境の問題かもしれませんが、安氏抗議文内の「濁点」部分が全角の結合文字になっており、読みにくくなっているように思います。)
Unknown
ダビュランスさま、Rawanさま、コメントありがとうございます。
今後、日本社会がどうなっていくのか、私もたいへん心配していますし、怖く思っています。一人ひとりが行動するしかないのでしょうが…。
濁点の部分は修正しました。