「移住女性が切り拓くエンパワメントの道」
広告
「移住女性が切り拓くエンパワメントの道 DVを受けたフィリピン女性が語る」という本を読んでいます。
同書は、1980年代から90年にかけてフィリピンから来日し、ドメスティック・バイオレンス(DV)の被害を受けたフィリピン人女性5人と、支援者の女性が、自らの経験を語り合い、互いの経験を分かち合う作業の過程で、いかにして互いにエンパワメントしていったのかを記録したドキュメントです。
女性たちが集ったのは「カラカサン――移住女性のためのエンパワメントセンター」といって、日本社会のなかで、移住者や女性であることから差別や暴力にさらされ、自らの力を奪われた移住女性やその子どもたちのエンパワメント支援を目的として2002年に設立されました。DVを受けた女性と子どもたちの支援を中心に、相談活動、フォローアップケア、提言活動などに取り組んでいます。
同書には女性たちのストーリー―ふるさとでの貧しい暮らし、日本人の夫から受けたDV被害、在留資格などの生活や権利の問題など―が自身の言葉で多く綴られており、それぞれの異なる背景とともに、共通する構造的な支配についても浮かび上がってきます。
女性たちに共通する体験は、さまざまな理由から日本に移住してきたがゆえ、日本人男性と結婚したがゆえに、性差別に加えて人種差別を経験するという複合差別、従属と抑圧、無力感。
読んでいて恐ろしくなったのは、日本人の夫が、(多くは不安定な在留資格や不十分な日本語力、社会的・経済的格差などから)配偶者に対して弱い立場にあり、配偶者に依存させられている移住女性たちの状況を逆手にとって、彼女たちの自尊心や価値観までも貶め従属させようとする、支配欲に対してです。さらにそれが女性であれば、いつでも、誰にでも起こり得るということ。社会生活を営む中で、私たち女性が、女性であるがゆえに日常の端々で感じるささいなストレスと決して無関係などではなく、ベースにあるものは同一だといえます。
その、女性たちからの「警告」もさることながら、支配から抜け出し自立を目指す彼女たちに共通する、力の源が「怒り」であることも、同書の注目したい点です。
同書は、より多くの人に自らの体験を伝え、すべての人々が尊重され幸せに生きることのできる社会の実現を願う女性たちの想いから、日本語と英語の合本になっています。(淑)