「国家」に翻弄される在日同胞たち―「百年~風の仲間たち」を観て
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少し前の話になるが、東京・吉祥寺シアターで新宿梁山泊第47回公演「百年~風の仲間たち」を観てきた。
「浪速の歌う巨人・パギやん」こと趙博さんの歌「百年節」を音楽劇に仕立てたものだ。久しぶりに趙博さんの顔を見たかったのと、月刊イオに紹介するため足を運んだのであった。
物語の舞台は、大阪・猪飼野のコリアンタウンにある居酒屋「風まかせ人まかせ」。開店20周年を祝う日に、縁のある同胞たちが集まってくる。チェサ(祭祀)で親族一同が集まれば政治談議になり立場の違いから喧嘩が始まるというのが在日同胞の定番だが、ここでも同じ。
朝鮮学校に通った者、通わなかった者、韓国へ留学中、「北のスパイ」として捕らえられ拷問を受けた者、南北朝鮮に対する考え方も歩んできた道も様々な在日同胞同士が絡み合い自分の物語を語る中で、在日同胞の100年が描かれていく。
日本による植民地支配、解放と分断、4.3事件、朝鮮戦争、民族教育、帰国事業、南の民主化闘争、帰化…。100年の歴史の中で在日同胞たちにとって欠かすことのできない出来事が物語の中に盛り込まれていく。避けて通れない出来事であり、在日同胞に多大な影響を与えたものだから、当然のごとく触れられるのだが、物語がステレオタイプ化された印象になったのは否めない。
作り手は、それを承知で、現在の日本の社会状況の中、何度でも繰り返し語られるべき物語だと、日本人が知るべき歴史だと訴えているのだとも思えた。
フィナーレに向かい、登場人物たちは、歌って踊り、南北と日本の狭間で翻弄されてきた在日同胞の「恨」を生きるエネルギーに昇華させ爆発させていく。そしてこう宣言する。「在日関西人として生きるんや」。
しかし、登場人物たちは、これまでと同じようにこれからも、朝鮮半島情勢や日本社会に影響され、左右され、生きていくのである。飲んで歌って踊って、いろんな憂さを晴らすことは重要だけど、それは一時のことに過ぎない。「百年節」の最後、「百年経っても変わらぬものは 不逞・謀反に不服従」と歌うが、エネルギーを社会変革のために使わないと、社会は少しも良くならない。朝鮮学校も守れない。
作り手は、そんなことも承知で、登場人物たちに歌って踊らせているとも思えた。
いろいろ書いたが、全体としてとても楽しい舞台で十分に満足できた。主人公・スジャを演じた三浦伸子さんをはじめ、日本人俳優たちが在日同胞役を熱演している。(k)