朴正煕は二度死ぬ
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既報のように、19日に投開票が行われた韓国の第18代大統領選挙でセヌリ党の朴槿恵候補が勝利した。
若年層に圧倒的な人気を誇る無所属の安哲秀氏が出馬を辞退し、事実上、保革の一騎打ちとなった今回の選挙は75.8%という高い投票率を記録し、大きな注目を集めた。朴候補は過半数の表を獲得(50%)し、終盤猛烈に追い上げた野党・民主統合党の文在寅候補を下した。
選挙戦終盤、安氏が文候補への支持を訴え、投票日直前にはもう一人の野党候補・李正姫氏が辞退、そして当日は前回・前々回を大幅に上回る投票率だったにも関わらずの野党候補敗北。「投票率が高ければ保守系候補が負ける」、「ソウルで負けたら落選する」、「40代有権者の得票率で負けたら落選する」という歴代の大統領選でいわれてきたジンクスは破られた。一昨日、昨日と各メディアの報道を流し読んだだけでも、進歩陣営の受けた衝撃や落胆の大きさを垣間見ることができた。
友人・知人、職場など自分の周辺でも文候補当選を望む声が圧倒的だった。その期待は、出口調査の結果が発表と同時に悲鳴となり、朴候補当選確実の報が流れると失望に変わった。
保守政権「第2幕」のスタート。彼女の大統領就任が韓国の政治史で持つ意味とは何なのか。
今回の選挙を通じて、韓国社会で朴正熙元大統領の影響がどれだけ色濃く残っているのかを実感した。もちろん、彼女が「独裁者・朴正熙の娘」だからだめだとは思っていないが、彼女の政治家としてのキャリアが父親と切っても切れない関係であることは間違いない。彼女は父親の後光をフルに活用して政治家になり、その負の遺産を清算することなくここまでのしあがった。彼女の歴史認識はいまだ父の枠組みの中に閉じ込められている。
そんな朴槿恵氏の勝利は、韓国社会が「朴正熙独裁18年」に対して事実上の免罪符を与えたと自分では思っている。たとえ彼女に対する支持が「朴正熙の娘」に対する支持ではなく彼女自身の政治力に対するものだとしても、このような解釈は大きく変わらない。今回の選挙を通じて、「独裁者の娘」のようなレッテル貼りは進歩勢力が選挙で勝つための手段としてはほとんど効力を失ったことが証明された。それは、今後も変わらないと思う。
ただ、朴槿恵氏が大統領になるからといって、かつての維新体制のような世界も復活するなどとは思っていないが。
朴正熙は18年間の抑圧統治で犯した無数の弾圧と悪行にも関わらず、いまだ韓国では「生きる神話」だ。朴槿恵氏にはこれを機に、30数年前に肉体的な死を迎えた父に二度目の「死」を宣言する役目を果たしてもらいたい。長らく韓国社会を規定してきた彼の思想と実践に「死」を与えるという役目を。もし彼女がそれをできないとしたら、「墓掘り人」を務めるのは誰になるのか。(相)