「高校無償化」問題、法廷闘争へ
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「高校無償化」(公立高等学校生徒の授業料の無償及び私立高等学校生徒に対する就学支援金の支給)制度の対象から朝鮮高級学校を除外したのは違法として、愛知朝鮮高級学校(愛知県豊明市)の生徒たちが24日、名古屋地方裁判所に対して国家賠償請求訴訟を提起した。原告は同校在校生2人と卒業生の3人の計5人。制度からの排除によって就学支援金が受給できず精神的苦痛を受けたとして、1人当たり55万円、総額275万円の損害賠償を求めている。損害賠償金は就学支援金相当額ではなく、慰謝料を請求する。
この日、弁護団、学校関係者、支援団体代表らが名古屋地裁を訪れ訴状を提出。受理された後、隣の愛知県弁護士会館で記者会見が行われた。
同時刻、大阪でも学校法人大阪朝鮮学園が「無償化」適用指定を求める行政訴訟を大阪地裁に起こした。朝鮮高級学校への「無償化」適用を求めるたたかいは舞台を法廷に移し、新たなステージへ入った。
今回の提訴は、朝鮮高級学校を「無償化」制度から排除する日本政府の行為が、日本国憲法が保障する原告らの平等権、人格権、学習権を侵害し、日本が批准する人種差別撤廃条約および「高校無償化」法に違反するとして、国の損害賠償責任を追及するものだ。訴状にも、違法性の核心として、憲法14条によって保障されている平等権の侵害、憲法13条の「個人の尊重」原理および幸福追求権から導かれる原告の人格権の侵害、憲法26条および国際人権諸条約によって保障される学習権の侵害などが挙げられている。(これまでの経緯や訴状のポイントなどについては、弁護団の声明を参照。 http://musyokanetaichi.blog.fc2.com/)
訴状には、在日朝鮮人社会形成の歴史や在日朝鮮人による民族教育の歴史についても詳細に記されている。原告側は今回の排除の違法性を日本の過去の植民地支配、在日朝鮮人差別という歴史の文脈からも明らかにしていくと思われる。
会見で弁護団の内河恵一団長は、裁判をおこした目的について、自民党政権下で制度適用に向けた政府の姿勢がますます消極的になっている現状に言及し、「政治ではなく司法の場できっちりと解決しようと訴訟に踏み切った」と明らかにした。そして、「さまざまな政治、外交問題があるが、朝鮮学校で学ぶ子どもたちと日本にいるほかの子どもたちとの間に不平等があってはいけない、私たち弁護士にとっては究極の人権問題だという認識を持って対処していきたい。子どもたちに差別のない、自分の民族、国、祖先を自信を持って確認できるような時代を保障するため、憲法の下で子どもたちの人権を守るために努力していきたい」と話した。
弁護団事務局長の明玉弁護士によると、原告側から訴訟に向けた最初の問題提起があったのは延坪島砲撃事件を機に文科省の審査が停止し「無償化」適用へのプロセスが年度をまたいだ2011年4月頃。訴訟の選択肢は二つ、一つは朝鮮高級学校を「無償化」の対象校として文部科学大臣に指定させる「義務づけ訴訟」、もう一つが、子どもたち個々人の学びの権利が侵害されている現状を訴える国賠訴訟。弁護団と原告との間で協議を重ねた結果、後者の訴訟形態に決まった。損害賠償の内容を就学支援金相当額ではなく慰謝料とした理由も、「原告側の希望があくまでも、裁判に立ち上がった自分たちだけでなくすべての朝鮮高級学校生に就学支援金が支給されることであるため」だとしている。
会見では、学校関係者も切実な思いを訴えていた。「審査結果も出さずに省令を改悪し、朝鮮学校を排除しようとする政治に期待することはこれ以上難しい、司法の場で問うしかないという判断だった」と学校法人愛知朝鮮学園の李博之理事長。「法廷の場に出ることは非常に大きな負担。学園側としては、本音では生徒たちを原告として出したくなかった。しかし、子どもたち自身が(日本政府の措置に)納得していない、その思いを大人は受け止めるべきだと思った。今ここで引いたら何も変わらない。われわれも子どもたちも決意を固めた」と胸の内を明かした。
支援団体である「無償化ネット愛知」の山本かほり事務局長も、「学校側としては幅広い支援を得るために朝鮮学校と日本学校の共通性を強調するが、支援者側としては両者の違いも強調したい。そもそも、違いを認めないことが問題であり、『国民の理解が得られない』というロジック自体がおかしい」と語っていた。
会見では、愛知朝高の在校生や卒業生たちが自身の思いをつづった文章も読み上げられた。彼らの受けた深い心の傷が表れたそれを聞きながら、取材している私も胸が締めつけられた。
この日の訴状提出、記者会見の場に原告やその保護者は姿を見せなかった。彼らの個人情報が流布された場合、嫌がらせ、暴行、脅迫などの犯罪被害が予測されるためだ。これは決して大げさな心配などではなく、過去の事例からしても十分ありうることだ。
朝鮮学校はこれまで過剰なほどに「開示」を求められてきたが、今回の裁判では、これまでさまざまな理由をつけて逃げ続けてきた国の側に「無償化」除外の根拠を問い、違法性を突きつけることになる。
裁判はいわば「最後の手段」。そのたたかいは端緒についたばかりだ。原告側によると、今後、行政訴訟などほかの訴訟形態をとることもありうるという。
当面は、3月24日に名古屋市内で訴訟決起集会が予定されている。「無償化ネット愛知」では今後長く続くであろう裁判への幅広い支援を呼びかけている。