日本の新聞社説に見る「高校無償化」からの朝鮮学校排除問題
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連休前に(瑛)さんも書いていたが、月刊イオの6月号の特集は「在日朝鮮人とマスメディア」である。日本のマスメディアが在日朝鮮人の問題をどのように報じてきたのかを歴史的に振り返り、その歪みを伝えるものだ。
特集のなかの一つに、日本の各新聞の社説が「高校無償化」からの朝鮮学校排除問題をどのようなスタンスでみているのかを検証する記事がある。改めて各社の社説を読んでみると、そのひどさに改めて怒りがわいてきた。
特集記事のなかで取り上げた「高校無償化」からの朝鮮学校排除問題に関する産経新聞と朝日新聞の社説を紹介してみたい。
まずは2010年2月23日付の産経新聞の「主張」。
タイトルは「朝鮮学校 無償化除外へ知恵を絞れ」となっている。タイトルからしてひどい。法的にはなかなか朝鮮学校を排除できないので、排除(差別)するために知恵を絞れと、全世界に向かって堂々と書いている。このタイトル通りに、日本政府は「国民の理解」などというものを作り出したりいろいろ知恵を絞って朝鮮学校を排除して今に至っている。
「主張」には次のように書いている。
「就学支援金も国民の税金である。それを使う以上、カリキュラムが日本の学習指導要綱に準拠していることは最低条件である。
文科省によると、各都道府県の認可を受けた朝鮮学校は平成21年度で全国に73校あり、うち日本の高校に当たる「高級学校」は中高級学校を含めて12校だ。いずれも朝鮮総連と深い関係にある。
朝鮮学校には毎年、各自治体から5億円を超す補助金が支払われている。この支出が妥当なものか否かのチェックも必要だ。」
「血税を外国人のために使うな」という排外主義者と同じ論法を使いながら、学習指導要綱云々を持ち出しているが、外国人学校の中から朝鮮学校だけを排除する理由にはまったくなっていない。カリキュラムが日本の学習指導要綱に準拠しているからこそ、文科省は自ら定めた審査基準に沿って審査手続きをしながら結論を引き延ばさざるをえなかったわけだし、最終的には「政治的な理由」を持ち出さなければならなかった。国公立大学をはじめほとんどの大学が朝鮮高校卒業生の受験資格を認めているのも日本の高校と同じだと見ているからにほかならない。また、2010年2月の段階で補助金の問題にも触れており、「高校無償化」と補助金がワンセットとして朝鮮学校弾圧に利用されている今をぴたりと言い当てている。産経新聞が朝鮮学校弾圧の先鋒に立つ「広報紙」であることがよくわかる内容だ。
次に2013年1月9日付の朝日新聞社説。
タイトルは「朝鮮学校 無償化で改善の回路を」。このタイトルの「改善」というのは朝・日関係を改善しようという意味ではなく、「朝鮮学校の教育内容を改善しよう」という非常に傲慢なものだ。ある意味、真正面から朝鮮学校排除を訴える産経新聞よりも狡猾で悪意に満ちたものとなっている。日本の社会状況をよくあらわしている社説だ。
社説は次のように書いている。
「朝鮮学校も教育のあり方が疑念を招いてきた。北朝鮮指導者の肖像画を教室に掲げ、独裁体制を肯定するような授業をしているとすれば受け入れがたい。
ただ、制度の対象は生徒個人であって、学校ではない。卒業後は日本の大学に進学する生徒も多い。日本社会の一員となる子どもたちだ。
生徒たちの学びを保障し、かつ日本や国際社会の価値観をきちんと学んでもらう。両立の手立てを探りつづけるべきだ。
これまで文科省は、無償化を認める場合には「留意事項」をつけ、日本の政治・経済の教科書を教材の一つとするなどの自主的改善を促すとしてきた。
無償化の対象にして回路を保ちつつ、こうした改善を働きかける。その方が、社会全体にとって有益ではないか。」
この社説が言っていることは結局、「高校無償化」制度に朝鮮学校を組み込むことで朝鮮学校の教育内容に干渉して民族教育を骨抜きにしようということである。朝鮮学校に拉致問題の授業を押し付けたり拉致問題の本を保護者に送りつけたりしているが、それを「正常なこと」だと考える政治家や役人と、この社説を掲載する朝日新聞社はまったく同じ。朝日新聞にとっては歴史に残る社説になるのではないか。そしてその考えが日本社会の大勢を占めてしまっている。
産経、朝日以外の他社の社説も五十歩百歩(地方紙のほうがそれでもましだ)。排除に反対する社説も、「北朝鮮は弾道ミサイルを撃ち、核実験もしてけしからん国だけれど、それと朝鮮学校で学ぶ子どもとは関係ない」「朝鮮学校で学ぶ子どもたちは将来日本社会に貢献する人材だ」「朝鮮学校も理解を得るために積極的に学校を公開するなど努力せよ」というのが主な論調だ。
朝鮮に核兵器を含めた圧倒的な軍事力で圧力を加えているのは米日韓であり、朝鮮半島をとりまく情勢が緊張しているのは米日韓の責任である。「北朝鮮」を批判すること自体が一方的であるし、朝鮮と関係が密接だろうと排除の理由にはまったくならないということを指摘すべきだ。また、朝鮮学校がなぜ日本にあるのか、歴史的な経緯に言及したものも少ない。解放後、1世同胞たちが朝鮮学校を建てたのは、日本社会のためでも朝鮮と日本の架け橋となる人材を育てるためでもない。
全体を通して、日本のマスコミが、在日朝鮮人が除外に対しなぜ怒りなぜ朝鮮学校を守ろうとしているのかを根本的に理解していないことがよくわかる。
詳しくは、月刊イオ6月号をぜひ読んでもらいたい。(k)