橋下市長を取材しながら
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橋下徹・大阪市長が、「軍隊に『慰安婦(日本軍性奴隷制度)』制度は必要であった」「(在日米軍司令官に)風俗業を活用してほしい」と発言した(5月13日)ことが日本国内はもちろん、世界中で波紋を呼んでいる。日本を訪問していた日本軍性奴隷被害者の女性が面会を拒否し、橋下氏の訪米も取りやめられた。だが、5月27日に、東京・有楽町の日本外国特派員協会での記者会見を取材しながら、この人は「弱者を切り捨て、強者にひれ伏す人」だと痛感した。なぜなら、在日米軍司令官への発言は撤回したが、日本軍性奴隷問題については「誤報」だとして撤回しなかったからだ。
「慰安婦」容認発言について氏は、「慰安婦の方々が被った苦痛、そして深く傷つけられた慰安婦の方々のお気持ちは、筆舌につくしがたい」としつつも、性奴隷被害者の証言については、「信憑性については議論がある」と疑問を呈した。さらに、日本が植民地支配したアジア各国の女性を「性奴隷」化したことを、「当時の日本が国をあげて強制的に拉致したわけではない」「歴史学者、政治家の中には民間業者が行ったという主張は多い」との発言を繰り返し、日本軍性奴隷制度の事実を認めることはなかった。
会見場には約400人の記者が集まり、会見は3時間の長丁場。海外の記者たちからは、「人身売買を容認するのか」とその認識を質す質問が続いた。
「国際的な人身売買の定義には、女性を騙したり拉致する最初の取引から、移送・拘束、意に反して働かせるなど、すべての過程が含まれる。市長は、『慰安婦』制度が当時の認識として人身売買ではなかったと考えているのか」(ニューヨークタイムズ記者)、「奴隷制度を容認するような市長の発言は、法律で人身売買を禁じたフランスを含めヨーロッパで驚かれている。もし、当時の日本政府、軍が強制連行や拉致を行っていることを知っていて何もしなかったのなら、その段階で軍が関与していたと考えられないのか。そうでなければ、誰がこの問題の責任を取るのか」(フランス人記者)―。会場には、最後まで「証拠がない」ことを口実に、国家の戦争責任を否定する市長の歴史認識欠如と人権感覚を疑問視する声もあがった。
橋下氏は質疑の中で、過去に是正を主張していた(2012年8月24日)「河野談話」について、「全否定しない」と主張を変えたが、それを問題視する質問もあがった。
香港・フェニックステレビの李・東京支局長は、「市長の説明は不明確で矛盾がある。河野談話は日本軍の直接、間接の関与を認めている。市長は、軍は関与したが強制性はなかったと思うのか、国は関与せず強制性もなかったのかと思うのか」と真意を質したが、答えは得られなかった。李さんは「日本の大きな政党のリーダーが外国人に風俗業を勧めたことは道徳・人格的にあまりに問題があり、発言撤回は当然のことだ。しかも、『慰安婦』問題につい発言を撤回しなかったし、本心はわからない」と納得できない様子だった。
「日本は謝罪しなければいけない」としつつ、国の関与や強制性については「河野談話には明確に書かれていない」と日本の責任を回避する橋下氏。氏はアメリカ、イギリスなどにも同様の制度があったとし、日本だけが攻撃を受けることに反発していたが、第二次大戦中に軍中央が認定する慰安所を持っていたのは日本とドイツだけで、日本がこの戦争犯罪を清算していないからこそ、「慰安婦」容認発言が世界中から問題視され、人権感覚を疑われるのだ。外国特派員との記者会見では、日本軍性奴隷問題に関する橋下氏の認識がどれほど低いものかが露呈された。
「第二次世界大戦の直前及び戦争中における軍事的性奴隷の徴集について説明を書こうとする際、もっとも問題を感じる側面は、実際に徴集が行われたプロセスに関して、残存しあるいは公開されている公文書が欠けていることである。『慰安婦』の徴集に関する証拠のほとんどすべてが、被害者自身の証言から得られている。このことは、多くの人が被害者の証言を秘話の類とし、あるいは本来私的で、したがって民間が運営する売春制度である事柄に政府をまきこむための創作とまでいって退けることを容易にしてきた。それでも、徴集方法や、各レベルで軍と政府が明白に関与していたことについての、東アジアのきわめて多様な地域の女性たちの説明が一貫していることに争いの余地はない」
上記の文章は、1994年に国連人権委員会が「女性への暴力に関する特別報告者」に任命したスリランカの法律家・ラディカ・クマラスワミさんが執筆した国連報告書(1996年)の一部である。約20年前になるが、91年にアジア各国から被害者の訴えが噴出した後、国連は「日本軍性奴隷」問題を公式調査し、日本政府が国際法を違反した法的責任を受諾し、被害者個々人に対して賠償と公的謝罪をし、教育内容を改め、犯罪者を処罰するよう、勧告した。
橋下氏は、日本軍性奴隷問題がきわめて国際的な問題だということに気づいているのだろうか。(瑛)
Unknown
あちこちのブログやツイートに目を通してみると、海外のジャーナリストたちはこの会見にいいかげんウンザリしてたようですね。
1時間の会見予定が3時間の長丁場に延びまくったにもかかわらず、橋本氏の発言はオウムの繰り返し同然。開始から20分で取っていたメモを突然ガシガシとペンで消しそのままメモ取りをやめた金髪の女性記者や、1時間でゾロゾロと退席を始めた一団、英語で「いいかげんにしろ!」と何度も壇上に向かって叫ぶドイツ人(←記憶あいまいです。失礼)記者、なんて光景が見られたようです。
自分に英語ができてそれなりの職業についていたなら、ぜひこの「トオル・ハシモトのスベリまくる話」を生で見たかったものです(笑)。
Unknown
>氏はアメリカ、イギリスなどにも同様の制度があったとし、日本だけが攻撃を受けることに反発していたが、第二次大戦中に軍中央が認定する慰安所を持っていたのは日本とドイツだけで、
この連中は、自分たちは口を開けば「証拠」がどうのと繰り返すわけですが、自分の主張については何ら「証拠」を提示することは無いんですよね。
日本軍の所業から目を背けさせて責任を回避するための口実に過ぎないかがよく分かるというものです。
Unknown
>Rawanさん
そういえば「ネット国士様」たちは、猪瀬都知事のイスラム侮辱発言や安倍政権について批判的記事を書いたNYTの女性日本人記者(今回の橋本会見でも質問してますね)について「反日分子」とデマをバラまいているようです。
これって国内向けに虚勢を張るいつもの延長線上でやっちゃってるんじゃないでしょうか? 日本人が相手であるというだけで「日本人のくせに」「売国奴」的な脊髄反射をしているのではと。記者がヨーロッパ系だったらおそらく口をつぐんでますよ。
これがアメリカのエスタブリッシュメントとその思考方式をナメきった行為で、結局自分たちの首を絞めることにつながるとは、おそらく分かっていない。無知とは恐ろしいものです。