イルム裁判控訴審
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在日朝鮮人2世の金稔万さん(53、兵庫県尼崎市)が、働いていた建設現場で「通名」(日本名)の使用を強いられ、精神的苦痛を受けたとして、建設業者や国に100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、大阪高裁であった。林圭介裁判長は原告の請求を棄却した一審の大阪地裁判決を支持し、金さんの控訴を棄却した。
「通名」の強制自体を否定していた1審判決とは異なり、今回の控訴審で高裁は「不必要な通名使用を強いて、金さんのアイデンティティーを侵害した」と建設会社による通名の強制は認めたが、「アイデンティティを侵害する悪意はない」とし、違法行為には当たらないと判断した。
大阪滞在中の私も判決当日、高裁に足を運んだ。高裁の建物前には開廷前から数多くの支援者、関係者、記者たちの姿があった。37枚の傍聴券を求めて100人以上が集まった。抽選にもれた私は部屋のすぐ外で判決の時を待った。控訴審判決は、「控訴を棄却する」。傍聴した人の話によると、主文の読み上げもなく、裁判官3人は判決を言い渡すとすぐに退席したという。
この金稔万さん本名(民族名)損害賠償裁判は「イルム裁判」(イルム【이름】は名前の意)と呼ばれている。裁判の概略については同裁判を支援する会のホームページ http://irum-kara.jimdo.com/ に詳しい。
金さんは2009年9月から約3ヵ月半、大阪・梅田のビル建て替え工事現場で日雇い作業員として働く際、雇用主の建設会社から元請けの大手ゼネコンに外国人と思われないよう、通名の使用を求められた。現場で使うヘルメットの「きむ」という本名のシールを剥がされ、「かねうみ」という「通名」のシールを貼られた。
今回の判決は、「原告に必要のない通名の強制があり、アイデンティティを侵害される結果になった」と認めるなど、1審に比べて事実認定の部分で前進はあった。しかし強制の理由については、外国人の雇用主に提出が義務づけられる「外国人就業届」をゼネコンから求められると建設会社側が誤解したため(特別永住者の金さんにとって必要ないにもかかわらず)だと指摘。「原告の速やかな就業を実現させる目的で、違法性はない」と結論づけたのだ。
要は、「強制はあったが悪意はなかったので問題はない」というのが判決の要旨。民族名を名乗る権利、日本社会における差別の歴史や安易に通名使用を求める現実などを考慮しない、原告が受けた苦痛を黙殺する判決だった。
「本名を名乗る権利をこれからも訴えていきたい」と判決後の会見で語っていた金さん。「言葉にならない、悔しい…。疲れた、少し休みたい」。言葉少なげな彼の憔悴した表情に胸が締めつけられる思いだった。(相)
上告して下さい
私の家で購読している東京新聞にも、掲載されていました。私は、一日本人ですが、地裁と高裁の不当判決に怒りを覚えます。是非、上告して下さい。