九州「無償化」裁判、口頭弁論はじまる
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先日の20日、福岡における「高校無償化」裁判は第一回目となる口頭弁論を迎えました。この日、81の傍聴席を求めて福岡地裁小倉支部に集まったのは約140人。九州朝鮮中高級学校がある福岡だけでなく、鹿児島県や山口県、春休みで帰省中だった同校卒業生の朝大生も駆けつけており、関心の高さが伺えました。
法廷ではまず服部弘昭弁護団長が、続いて原告2名による意見陳述が行われました。
服部弁護士は、朝鮮植民地支配に端を発する日本政府による在日朝鮮人に対する数々の差別・弾圧を挙げ、「高校無償化」制度からの朝鮮学校排除がそれらに列記すべきものであると指摘した上で、「無償化」問題の差別構造に特化して陳述を行いました。服部弁護士は、日本国が教育基本法上の「不当な支配」という曖昧かつ抽象的な要件を持ち出し、政治目的で朝鮮学校を除外したことは許されないと強調。国は、要は就学支援金を支給しても他の目的で流用するのではないかとの懸念を有しているようだが、九州中高の財政状況は透明化されており、過去に生徒の授業料を学校運営目的以外に流用したことはなく、また、同校は政府からの補助金支給を受けておらず、運営を保護者の授業料と寄付金に依存する財政状況を鑑みてても、このような疑いは同校の置かれた現実を顧みないいわれのない偏見であり、被告国は上記の差別の合理性について主張立証しなければならないと指摘。最後に、昨今のヘイトスピーチやJリーグ浦和レッズの差別的横断幕の一件を挙げながら、本件はまさに在日朝鮮人に対する差別の助長であると断じました。
続く原告による意見陳述は、裁判官席と傍聴席との間にパーテーションを設け、遮へい措置をとった上で行われました。今回陳述したのはこの春同校を卒業した2名で、それぞれ高校3年間「無償化」問題に向き合いながら感じてきた、民族教育とウリハッキョへの思いを語りました。一人は「私たちの両親は、納税をはじめとする日本に住む上での義務をきちんと果たしています。しかし、それにともなう権利が与えられませんでした。義務の面では『国民』として扱い、権利の面では『国民』とは区別し差別しています。国は無償化の対象から除外する理由について、『教育カリキュラムに問題がある』と説明していましたが、朝鮮人である私たちが自分の国について勉強することに問題があるのでしょうか」と話し、もう一人は「私も、先輩たちと同じように悔しい気持ちを抱えて、この3月2日に朝高を卒業しました。私は、朝高の後輩たちに、私たち卒業生と同じような悔しい気持ちを抱えて欲しくありません。私が原告となった理由は、ここにもあります。私は、後輩達に任せるのではなく、今いる朝高の後輩たちのために、これから朝高に入ってくる後輩のために、この裁判を頑張ろうと思っています」と訴えました。
傍聴席には原告代表を見守る同級生らの姿もありました。生徒らは卒業前、「卒業してそれぞれ別々の進路に進んでも、この問題を引き続き自分たちの問題と捉えて、何かあればすぐにみんなで集まろうと約束した」と、原告の一人が話してくれました。
鹿児島から新幹線で駆けつけた保護者の一人は傍聴した感想を「裁判ではウリハッキョ出身の弁護士(金敏寛弁護士)、ウリハッキョの生徒が裁判官の前で堂々と発言していて、『私たちの民族教育は間違っていなかったんだ』と、本当に誇らしい気持ちでした」と語ってくれました。一方で、末っ子の中級部進学にともない4月から3人の子どもを寄宿舎に送る財政的負担は、家計にいっそう重くのしかかり、「どこを叩いても鼻血すら出ない。たとえ雀の涙ほどの支援金でも、わが家にとって『無償化』適用は深刻な問題。子どもに最後まで民族教育を受けさせてあげることが、親としての一つの闘いだ」と話していました。
裁判後に開かれた報告集会では、弁護団の金敏寛事務局長が法廷で行われたことについて非常にわかりやすく説明していて、同胞たちとともに裁判を進めていきたいという思いが感じられました。金弁護士は、「通常の民事裁判では法廷で陳述書を読み上げることはないが、裁判官にまずは知ってもらい、偏見を取り除くことが重要であるから、今後も法廷で直接陳述していこうと考えている」と話しました。この日の裁判で被告側は、昨年12月に弁護団が提出した訴状に対する答弁書を陳述したという扱いになり、金弁護士によると「まだ具体的な反論は示されていない」とのことでした。
裁判の同時刻には抽選に外れた人たちのためにミニ学習会が行われ、場内には募金箱も設置されたほか、朝鮮学校無償化実現・福岡連絡協議会-朝鮮学校無償化裁判を支援する会-が作成した会報も配布されました。同会では3ヵ月に一度会報を発刊し、裁判の経過や当事者・支援者の声など、何よりも日本人の支援者を募るために、様々な情報を伝えていくとしています。ほかにホームページも立ち上がり、今後は財政支援のためのグッズ販売等も検討しているそうです。九州では裁判とともに、運動を支えるための多方面からの取り組みが始まっています。(淑)