自由権規約委員会での「ダメ出し」
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今回のエントリは、まずお知らせから。
イオ8月号が完成しました。特集は「朝鮮学校百物語」。1945年から現在まで70年近く続く朝鮮学校の歴史の中で生まれたさまざまな物語やエピソード(面白い話から感動的な話まで)を、朝鮮学校に関する豆知識などとともに一挙紹介しています。特別企画は「進化するウリ教育」。教育のICT化のモデル校を目指す埼玉朝鮮初中級学校の取り組み、今年改編された中級部英語、理科、数学の教科書の内容を紹介しています。その他、長野で行われた「ウリ民族フォーラム2014」や広島での「モンダンヨンピル」コンサートの模様などを掲載しています。
ここから本題。
さる7月15、16の両日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で自由権規約委員会による日本政府報告書審査が行われた(自由権規約については過去のエントリを参照)。
http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/8338df2a35ce806bee084c3867042a70
「高校無償化・就学支援金制度」からの朝鮮高校除外問題を訴えるため、朝鮮大学校の学生2人を含む在日朝鮮青年学生代表団もジュネーブを訪れた。朝大生たちの活動のようすは、朝鮮新報で報じられている。(記事閲覧には無料の会員登録が必要)
http://chosonsinbo.com/jp/2014/07/kokuren01/
http://chosonsinbo.com/jp/2014/07/kokuren02/
現地からの報道によると、6年ぶりとなる今回の審査では人種や民族などを理由に差別を煽るヘイトスピーチが国内で広がっている現状に懸念が示され、日本政府に法整備など具体的な対策を促す声が上がったという。また、袴田事件との関連で死刑制度や代用監獄の問題が指摘されたほか、特定秘密保護法の問題も取り上げられた。
日本軍戦時性奴隷制の問題では、日本外務省の山中修・人権人道課長が従軍「慰安婦」を「性奴隷とするのは不適切」という見解を表明。これに傍聴席の一角から拍手が起き、委員長が苦言を呈する場面もあったという。会場のひんしゅくを買ったであろう拍手をしたのは、日本の右派団体「慰安婦の真実国民運動」のメンバー。同団体のブログには、現地に「調査団」を派遣し審査を傍聴するとともに、「慰安婦は戦時性売春婦であり奴隷ではない」ことを訴える、とある。
「慰安婦」問題に対する日本政府の見解については、議長からも「『強制連行でない』という主張と『女性の意思に反して行われた面もある』という認識が両方あるのは理解できない」という見事なツッコミを入れられる始末だった。
要は今回、日本国内における差別や人権侵害の野放し状況が国際舞台で厳しく指摘されたのだが、日本が「ダメ出し」をされるのはもちろんこれが初めてではない。昨年4月の社会権規約委員会では、「高校無償化制度」からの朝鮮学校除外は差別であるという勧告が出され、5月の拷問禁止委員会では「日本の刑事司法は中世並」と指摘されたほか、日本政府代表団の団長を務めた当時の人権人道大使が「シャラップ」と声を荒げたことも記憶に新しい。両審査を通じて数多くの是正勧告がなされたが、日本政府はなんとこれらの勧告に対して「従う義務なし」との閣議決定をしている。
それにしても、日本政府代表の答弁を聞いていると、日本にはまるで何の問題もないかのように、その審査の場だけ時間が止まったかのような奇妙な感覚に襲われる(私も昨年ジュネーブでそれを体験した)。実際には、性差別、被差別部落、日本軍「慰安婦」、朝鮮学校「無償化」排除、移住労働者、生活保護などなど諸問題が未解決のまま山積しているのだが。
自由権規約委員会は勧告を含む最終所見を今月24日に公表する。前回(2008年)にも増して厳しい勧告が出ることが予想される。日本政府がこれにどのような反応を示すのかが重要なのだが、安倍政権のこれまでの取り組みを見る限り、自ら肯定的なリアクションを取る可能性は悲しいかな薄いといわざるをえない。(相)