幼少期の読書体験
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初級部3年時の担任教員は、児童らの誕生日を「一人ひとりに合った本をプレゼントする」という素敵な方法で祝ってくれました。
先生は、なぜその人にその本を選んだのか、クラスメイトたちのキャラクターや長所について、本の内容と関連づけながら語ってくれました。
2月生まれの私は、先に誕生日を迎える人たちを羨ましく思いながら、自分の順番が回ってくるのを心待ちにしていました。
待ちに待った誕生日のホームルーム。
先生が私に選んでくれたのは、「だれも知らない小さな国」というファンタジー小説でした。
佐藤さとるさんの大人気シリーズ、コロボックル物語の第1作です。
先生がこの本を選んだわけは、先生と私の、ある「共通点」にありました。
クラスのみんなの前で先生は、
「先生には兄2人と弟が1人います。(淑)と同じですね。そんな(淑)には共感を込めて、先生が初級部3年生の時に読んで大好きだった本をあげたいと思います」
と話してくれました。
この本が私にあてがわれた嬉しいいきさつもあり、そして実際に読んで、私はこの小説が大好きになりました。
その後シリーズ全巻揃えて、夢中になって読みました。
その本を、約20年ぶりに再読しました。
あらすじは以下のとおり。
泉が湧き、椿の花が作美しい小山に魅了された、小学4年生の「ぼく」。足繁く通ううちに、小山に伝わる不思議な伝説を聞く。それは、小山に住む、小指ほどの小さな人・コロボックルの話だった。このコロボックルを一度だけ目撃したぼくは、やがて大人になり、コロボックルたちとの再会を果たす。そしてコロボックルたちと秘密の信頼関係を築きながら、小さいけれど、豊かで平和な国をつくり、守っていく…。
コロボックルとは、アイヌ語で「フキの葉の下の人」という意味を持つ、アイヌ民族に伝わる小人のこと。
小説の魅力の一つは、なんといってもこのコロボックルのキャラクターの面白さにあります。
コロボックルを簡単に説明すると…、
身長は3センチ弱。体重1グラムくらい。人間の数倍の早さで動き回るので、人の目で見ることはできません。人間をじっくり観察するようなときは、アマガエルの皮をかぶって行動します。口調もとても早口なので、人間が聞くと「ルルル…ッ」としか聞こえません。頭の回転も早い。
今でも、誰もいない部屋で人気を感じたり物音がすると、反射的に(コロボックル!?)と思ってしまうほど、深い記憶として刻まれています。
そして、日本にアイヌという他民族が存在することを知ったのも、この本を読んでからです。
アイヌ民族に対する差別と抑圧の歴史を知るのは、もっとずっと後のことですが、コロボックルとともにアイヌという単語が私の中で特別な思い入れのある言葉になりました。
本書は、戦後を時代背景としており、自然保護や平和、私利私欲でなく信頼しあえる人間同士の国づくり、というのも大事なテーマとなっていますが、個人的には、童心に戻って、主人公やコロボックルたちと笑ったりワクワクしながら読むのが良いと思います。
他の同級生らは、先生が選んでくれた本と、各々どんな関係を結んだのでしょうか。今度会った時に聞いてみるのもいいかもしれません。(淑)
無題
>初級部3年時の担任教員は、児童らの誕生日を「一人ひとりに合った本をプレゼントする」という素敵な方法で祝ってくれました
その方、相当に優秀な教員さんですね。
子どもに読書を勧めるにあたって、「誕生日のプレゼント」として渡すこと。加えて、その本がその子の持つ「何か」に必ずリンクしているよ、と告げること。最高の教育センスの持ち主です。
さらに言えば、その子に最も適した本を選ぶためには、児童文学作品の良作を常にリサーチし、なおかつ児童の日頃の学校生活も注意深く観察していなければならない。
おそらくその方ご自身も大変な読書家だったのでしょうが、それだけでできることでは到底ありませんね。
自分の子どもにどういう本を、どういう形で与えれば、喜んで読書に没頭してもらえるか――親としてはいつも頭を痛める問題です。
(淑)さんの恩師であるその方に、私自身が教えを乞いたいものです。
ブラウさんへ
先生に関して、まったく同感です。
本をプレゼントするという教育理念もさることながら、20数人分の、それぞれに合った良書を見つけ出す努力。
おとなになってから、改めて素晴らしい先生だったと感じます。
他の生徒たちにどんな本を紹介したか、一つも覚えていないのが残念です。