第三帝国の恐怖と貧困―あのころのドイツといまの日本
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東京に出てきて良いこと悪いこと、いろいろあるが、良いことのひとつにいろんな文化に触れられることが挙げられる。東京に住むようになって演劇をたくさん観るようになった。仕事で観ることもあるが、個人的に演劇の空間が好きで、友人たちがやっている芝居には必ずと言っていいほど足を運んでいる。
先週も友人の所属する劇団、東京演劇アンサンブルの公演「第三帝国の恐怖と貧困」を観にいった。劇団創立60周年を記念した公演の第三弾として企画されたものだ。東京演劇アンサンブルは、ドイツの劇作家・詩人であるブレヒトの叙事詩的演劇に共感し社会の矛盾に向き合ってきた劇団で、これまでブレヒトの作品を数多く上演してきた。劇団の小屋も「ブレヒトの芝居小屋」と名前が付けられている。
公演のパンフレットの中から「第三帝国の恐怖と貧困」という作品について説明すると、この作品は1935年から1938年にかけて書かれたもので、35年にブレヒトはナチスによりドイツ市民権を剥奪されている。「第三帝国」とは、ナチスが自らの政権を指して呼んだ名称で、作品はナチスが台頭し戦争へと向かっていく、当時のドイツ社会を描いている。タイトルが第三帝国の「恐怖」だけでなく「貧困」となっているのが意味深で素晴らしい。
ブレヒトの原作では、「第三帝国…」は24の場で構成されているそうだが、今回の公演では14の場で構成された作品となった。
1場は1933年1月30日、ヒトラーが首相となった日が描かれる。そこから、ナチスの思想統制が強まっていき、市民たちがお互いに監視しあうようになり、ユダヤ人や共産主義者への迫害が激しくなり、些細なことで人々は収容所へ送られるようになる…。
このように書くと単純になってしまうが、ブレヒトは各場を個性豊かに人間を描き構成して芝居にしているのだ(うまく説明できない)。
演出、演技、舞台装置、ピアノ音楽とどれもが素晴らしい。演出家が、あのころのドイツ社会といまの日本社会を非常に意識的に重ね合わせているところが特筆すべきところだ。
作品は冒頭、ブレヒトの詩から始まる。
ほんとうにぼくの生きる時代は暗い
無邪気なことばは間がぬける
つややかなひたいは感受性欠乏のしるし
わらう者はおそろしい知らせをまだ受け取らない者だけだ
……
在日朝鮮人にとって、いまの日本はけっして明るくない。暗い。
日本人にとってはどうなんだろうか。
ラストの14場は、1938年3月13日を描く。ナチスがオーストリアを占領した日だ。民衆が大歓声をあげる、その音がラジオから流れてくる。
「第三帝国の恐怖と貧困」は3月22日まで上演されている(今日16日は休演)。必見の作品。ぜひブレヒトの芝居小屋へ足を運んでいただきたい。一般当日4500円、前売り3800円だが(17日と18日はロープライスデイで2500円)、少なくとも1万円の価値はある。公演のパンフレット(写真、500円)も素晴らしい内容となっている。
詳しい情報は東京演劇アンサンブルのHPまで。(k)
http://www.tee.co.jp/stage-shoukai-image/daisanteikoku/14daisanteikoku.html