東京「無償化」裁判第5回口頭弁論
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日刊イオの読者の皆さん、アンニョンハシムニカ。今日は祝日でブログはお休みの日ですが、先日の東京「無償化」裁判第5回口頭弁論についてお知らせします。
東京朝鮮中高級学校の高級部生62人が原告となり、日本政府を訴えた「無償化」裁判・第5回口頭弁論が3月18日、東京地裁大法廷で行われました。97席の傍聴席を求めて233人が列をなしました。
東京中高では3月1日に卒業式が行われ、すべての原告が母校を去りましたが、この日の裁判には20人以上の原告卒業生の姿もありました。
前回の進行協議では、国に対し、裁判所から2つの宿題が出されていました。
第1の宿題は、朝高を不指定とした理由として国は、①東京朝高が本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことと、②規定ハを削除したこと―の2つをあげているが、②の理由が①の理由と独立しているのはなぜか、説明すること。
第2の宿題は、国は不指定処分が違法であっても、原告らの権利侵害とはならないと主張するようであるが、その理由を説明すること。
これに対し、被告・国側は第3準備書面を提出。6ページの書面をもって反論しました。
報告集会での伊藤朝日太郎弁護士や金舜植弁護士の解説をもとに、国の主張を記します。
●国側の反論―宿題①への回答「不指定の主たる理由は13条」
国側は「(東京朝高を)不指定処分にした主な理由は、あくまで「本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことである」(国側準備書面)と述べ、13条が不処分の主な理由だと主張しました。一方、規定ハを削除したのは、「念のため」だと主張。13条を主戦場に戦っていく国の立場が明かされました。
※規程13条:指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適切に行わなければいならない
「本件規程13条に適合すると認めるに至らなかった」―。
このまどろっこしい文章ですが、確認すべき点は、あくまで国は、「適合しない」とは断言していないことです。審査した結果、少なくとも適合するという結論にはならなかったという、非常にあいまいな表現を使っています。
なぜ、結論を出さなかったのか―。
国側は、審査の過程で強制的に立ち入り調査をして書類を押収するなどの権限がなく、指定の基準を満たすかどうかの審査に限界があることを理由としてあげていますが、他の学校にないハードルを朝鮮高校に設け、厳格適用しています。不平等で差別的であることは明白です。
開廷時、裁判官から国の立場への質問がありましたが、国側のロジックを裁判所にしっかり伝えることが今後の課題といえるでしょう。
●国側の反論―宿題②への回答「朝高不指定でも、原告の権利侵害にはならない」
国は、「本件不指定処分が違法であっても原告らの権利または法的利益を何ら侵害しないと主張するものではない」と述べました。
つまり、「不指定処分は違法でもなく、人権侵害でもない」と言っています。
わかりきったことですが、日本政府は、自分たちの行いが「無償化」法はじめ、法に基づいていると主張しているのです。
●国側の反論―国連勧告を無視
さらに今回、国は、「国連・人種差別撤廃委員会等の所見をもって本件不指定処分が違法となるものではない」―と国連勧告を真っ向から否定しました。
「人種差別撤廃委員会等の所見は、わが国の就学支援金制度の仕組みや、支給法、本件省令、本件規程、本件13条の基準を踏まえたものではなく、朝鮮高級学校、北朝鮮及び朝鮮総連に対する具体的な事実調査を行った上でなされたものではない…適正な学校運営がされていないと疑われるような事情等があったことを踏まえてされたものでもない」
「支給法は…生徒自身や生徒の国籍によって区別しているものではなく、この点からしても、人種差別には当たらない」(以上国側準備書面)
昨年8月29日、国連人種差別撤廃委員会は、「無償化」からの朝鮮高校排除を「人種差別」と断定し、日本政府に是正を求める勧告を出しました。
国連は各国の人権状況を調べるうえで、当然、日本政府の言い分を聞いています。
にも関わらず、「国連は日本の事情や法律をよくわかっていない」と主張する姿は、駄々をこねる幼児のようでした。国連常任理事国入りを望む日本ですが、「人権の国際基準」は、無視してもいいことなのでしょうか。
以上、国側の主張を整理しましたが、高校「無償化」法は、すべての学ぶ意志のある高校段階の子どもたちを支援する、という趣旨に基づいています。
弁護団からは、「本来でいえば、高校段階のレベルの学習をしているかどうかが、判断基準だ。そこに、朝鮮学校にだけ、『不当な支配』ということを滑り込ませてきている。朝鮮学校と総連との関係とその学校が高校レベルの教育をしているのかは、まったく関係がないことなのに、話をごまかそうとしている。本筋に立って主張を準備したい」と力強い発言がありました。
閉廷後、参議院議員会館で報告集会が行われ、弁護団による口頭弁論の解説、東京朝高卒業生や保護者たちによるアピールが続きました。
東京朝高では3月1日に第65期卒業生が母校を巣立ち、62人の原告全員が卒業しました。集会では、卒業した生徒や教員たちが、「無償化」を勝ち取れなかったことに口惜しさをにじませながら、「無償化」差別に闘ってきた3年間を堂々と振り返っていました。
男子卒業生は、「制度が始まった時にまだ中学生だった僕たちは、『無償化』差別の何が問題なのか、わからなかった。原告の僕たちが理解してこそと思い、学習会を開き、裁判について知ろう、後輩たちに知恵や思いを伝えようと頑張ってきた。この問題に終止符を打てないまま卒業し、後輩たちが立ち向かっていくことがくやしい」と語り、女子の卒業生は、「卒業した原告は離ればなれになる。長い戦いが続こうとも、勝利に向かって正当性を叫び続け、同級生のみんなと一緒に喜びを分かち合いたい」と決意を語り会場の涙を誘っていました。
教員として檀上に立ったのは高3を担任した金恵暎さん。「生徒たちを法廷に立たせることがいいことなのか? なぜ今なのか? 教員たちでたくさん話をしました。生徒たちは『無償化』について学ぶ過程で、自分たちが歴史の主体になるんだ、変えていくんだと必死に戦いました。生徒たちは私の同志です」と声を震わせていました。
卒業していく原告たちの思いはいかばかりだったのでしょう…。
会場には20人以上の原告の生徒たちが座っていました。前年に卒業した64期生の女学生も、「64期、65期は当事者の気持ちを最後まで引っ張っていく存在。当時の気持ちを忘れずにがんばっていく」と後輩たちを励ましていました。保護者の金栄愛さん(49)は、「『無償化』差別は、私の人生を否定されたのも同じ。人間の尊厳を踏みにじられ、朝鮮学校の存在を脅かす事態で、私たちは当事者としてしっかり監視しなくてはならない。卒業した原告の皆さん、あなたたちは一人じゃない。国を相手に戦った勇気と気迫を忘れない」とエールを送っていました。
いつものように、支援者からも発言が続きました。
「無償化連絡会」の長谷川和男さんは、安倍政権が省令を改悪した2月20日、全国一斉行動を成功させたことに触れ、「戦いは確実に広がっている」と手ごたえを語り、毎月20日に東京朝鮮第3初級学校の最寄りの大山駅で街宣活動を続けている「すべての学校に高校無償化を! 練馬の会」の林明雄さんは、「大山は下村文科大臣の地元で2月20日も差別を訴えた。引き続き世論に訴えたい」とアピールしていました。
原告が卒業した今、「無償化」運動にかけたかれらの思いをどう引き継いでいくかが、今後の課題です。
第6回口頭弁論は5月20日(水)14時から、東京地裁の大法廷で。次回は、原告側が反論します。(瑛)