国際人種差別撤廃デー記念集会
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今月18日、参議院議員会館で開かれた集会「ストップ。レイシズム! ストップ。ヘイト・スピーチ!」に足を運んだ。
これは、国際人種差別撤廃デー(3月21日)を記念する集会で、人種差別撤廃NGOネットワークが主催したもの。
集会には一般の参加者、国会議員に加え、アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、北・中・南米など28ヵ国の駐日大使館関係者も出席。部落、アイヌ、沖縄、移住労働者、在日朝鮮人などマイノリティのコミュニティの代表らが差別の実態について話した。
主催者一同を代表して集会の提言を発表した師岡康子弁護士は、日本の人種差別は歴史的、構造的な問題であり、政府の差別的な政策と関係していること、マイノリティに対する差別が深刻な人権侵害を引き起こしているにもかかわらず政府は差別をやめさせ被害を救済する措置をとっていないこと、などを指摘。そのうえで、人種差別撤廃基本法の制定が急務であると述べた
以下、提言を要約して紹介する。
これまでのマイノリティ当事者からの報告で、日本の人種差別の深刻な実態の一部が明らかになりました。特に、ここ数年悪化したヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムの問題は、マイノリティに属する人々の尊厳を傷つけるだけでなく、社会に差別と暴力を蔓延させ、民主主義を破壊し、ひいては戦争やジェノサイドにも突き進んで、国際社会へも大変な被害をもたらしかねません。
私たちは、このような日本における人種差別の一番の問題は、国が人種差別問題の存在、あるいはその深刻さを正面から認めることから逃げ、取り組まず、放置していることだと考えます。
人種差別問題は、歴史的、構造的な問題であり、植民地支配をはじめとして、国の差別的政策に主要な原因があります。また、現在も、朝鮮学校の高校無償化制度からの排除のように、国が公的、制度的に差別を行っています。国が、率先して、自らのこれまでの差別的な政策を反省し、改めなければ、社会から差別がなくなるはずがありません。
日本は、国連の人種差別撤廃条約に1995年に加盟し、今年で20年になります。よって、国際人権法上、人種差別を撤廃する義務を負っています。
しかし、それにもかかわらず、日本政府は、国連の人種差別撤廃委員会の3回の審査の中で厳しく指摘されてきたように、人種差別撤廃に真摯に取り組んできませんでした。
そのため、人種差別撤廃委員会をはじめとして国連の人権条約監視機関から再三指摘されてきたように、国際人権基準の求める、人種差別撤廃法制度がほとんど何もない状態です。人種差別撤廃政策自体が策定されておらず、政府に担当する省庁すらありません。人種差別撤廃法制度の柱である、人種差別禁止法もありません。ヘイト・クライムやヘイト・スピーチを規制する法律もありません。人種差別撤廃のための教育プログラムもありません。人権政策を監視し、推進するための、政府から独立した国内人権機関もありません。個人通報制度も一切受諾していません。国際的に比較してみても、非常に遅れた状態です。
このような深刻な状態が続いてきましたが、2013年、ヘイト・スピーチがはじめて社会問題化し、日本の国内外から批判が高まりました。それを受けて、2014年4月には、国会で、超党派の「人種差別撤廃基本法を求める議員連盟」ができました。この「人種差別撤廃基本法」とは、まず、国が人種差別撤廃に取り組む責任があることを明確にし、人種差別が違法であることを宣言し、かつ、差別の実態調査を行って人種差別撤廃政策を策定する、一定の独立性がある機関を設置する理念法・組織法です。人種差別撤廃法制度がまったくない現状からすれば、障がい者差別に関する障がい者基本法や、女性差別に関する男女共同参画社会基本法と同様に、基本法という枠組みを作ることは、確実で大きな第一歩です。
他方、2014年8月には自民党に、翌9月には公明党に、ヘイト・スピーチ問題対策プロジェクト・チームができました。与党もこの問題を具体的に検討し始めたことは評価しますが、これまでのところ、ヘイト・スピーチを人種差別問題として位置づけておらず、表現規制か否かとの問題に切り縮め、人種差別撤廃基本法制定への態度が不明確です。
しかし、人種差別撤廃委員会などから勧告されているように、小手先の現行法の運用の改善で解決する問題ではなく、国際人権基準に見合うよう、国が責任を持って、人種差別撤廃法制度を整備することが急務です。
5年後の2020年にオリンピックを控え、国際的にも注目される状況において、最低限の国際人権基準すら満たさず、政府が自らの人種差別政策を改めず、また、人種差別の実態から目を背けていることは許されません。
私たち人種差別撤廃NGOネットワークに集まったマイノリティの当事者団体とNGOは、政府と国会が一丸となり、直ちに人種差別撤廃基本法を制定することからはじめ、人種差別撤廃法制度を整備することが急務であると強く訴えます。
(相)