一人芝居「在日バイタルチェック」
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先週の土曜日、東京・三河島で行われた一人芝居「在日バイタルチェック」(以下、「在日―」)を観てきた。「在日―」は、劇団石(トル)によるもので、演じるのは劇団の主宰者、きむ・きがんさん。「在日―」は2013年10月に初演され、今回の東京公演で26回、27回目となるそうだ(今回、昼、夜と2回公演された)。
感想をひと言で言うと、素晴らしかったというしかない。「在日―」のことは、月刊イオの6月号で詳しく掲載するので、ここでは少しだけ紹介したい。
物語の舞台となるのは大阪・生野にあるデイサービスセンター「ミンドゥルレ(タンポポ)」。ミンドゥルレに行くのを毎日楽しみにしているのが90歳になるウルセンというハルモニで、物語の主人公だ。ウルセンハルモニは済州島で海女をしていたが、日本の植民地時代に日本に渡ってきた。ミンドゥルレでは、所長で2世のミョンミ、職員で3世のヨンスギ、新人の山本陽子の3人が日々、ハルモニたちの世話をみている。
ある日、ウルセンハルモニの90歳の誕生日祝いがミンドゥルレで開かれる。夫婦で参加したウルセンハルモニに、ミョンミが二人の馴初めについて聞くと、ウルセンハルモニは祖国解放の日を振り返りながら、これまで歩んできた人生を語り始めるのだった。
芝居では在日朝鮮人の100年の歴史が凝縮されて語られる。日本による植民地支配。土地や資源、そして言葉や名前まで奪われる。男性たちは日本へと強制連行されていく。解放後の祖国の分断、学校建設と弾圧、指紋押捺などによる監視と管理、結婚・就職差別、チマチョゴリ事件、そして現在の「高校無償化」問題とヘイトスピーチ…。
これらの出来事を爆笑と涙の中で作品として伝えてくれているのが本当に素晴らしい。それを実現させているのは、一つには、一人で1世、2世、3世、少年と演じるきむ・きがんさんの卓越した演技力だ。
台詞がきむさんの口から発せられるや、在日朝鮮人の怒りや恨み、また喜びがひとつの怪物になり会場中で暴れだしたようだった。観客はその怪物に踏み潰される。私も完全に踏み潰された。その怪物は、在日朝鮮人が異国で生きてきた、そのエネルギーそのものだと思う。それをマダン(場)に見事に再生させていた。
2010年2月4日のこの日刊イオで、「ビッグ3」(http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/c39b5290e7d4032e5edb908a954d7f18)という文章を書いたが、在日演劇界のビッグ3をビッグ4に、在日演劇界の「3金」を「4金」に改めないといけないと思った。
きむ・きがんさんは、「在日―」を作るに当たり、いろんな資料を参考にしたそうだが、話を聞くと、「月刊イオはほんとにめっちゃ参考になりました」と語ってくれた。この素晴らしい作品が誕生するに当たり少しでも月刊イオが貢献できたと思うと、本当にうれしい。
主人公のウルセンハルモニは、きむさん自身のハルモニの名前でその姿が基調となっている。「描いているのは真実。うちのハルモニは生きてたんやでということを伝えたい。在日の心の中にはみんなそれぞれ、強烈な1世の姿が生きている。その歴史を埋もれさせてはいけないという思いがある」ときむさんは作品への思いを語っていた。
今回の公演を主催したのは「嘘みたいな本当の在日話」、フェイスブック上で活動する在日同胞のコミュニティーページを運営している集団である。「在日バイタルチェック」を観て感動したメンバーがぜひ東京でも上演したいと企画したそうだ。「嘘みたいな本当の在日話」のページはフェイスブックで「いいね」が1万人を越えた。今回の公演は1万人突破を記念したものでもある。こんな素晴らしい作品を東京で上演してくれた「嘘みたいな本当の在日話」にも心から感謝したい。
きむ・きがんさんは、「在日―」をこれから、日本各地の朝鮮学校でも上演したいという。朝鮮学校の関係者の方々は、この作品を学校でぜひ上演し子どもたちに観せてあげてほしい。何十回の授業よりも学ぶことが多いと思う。(k)