世界の果てのこどもたち
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中脇初枝さんの小説『世界の果てのこどもたち』を、(瑛)さんに借りて読みました。著者は、現在公開されている呉美保監督の映画『きみはいい子』の原作者でもあるそうです。こちらの映画も気になります。
本書のあらすじは、以下のとおり。
―戦時中、高知県から親に連れられて満州にやってきた珠子。言葉も通じない場所での新しい生活に馴染んでいく中、彼女は朝鮮人の美子(ミジャ)と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会う。お互いが何人なのかも知らなかった幼い三人は、あることをきっかけに友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国残留孤児になってしまう。美子は日本で差別を受け、茉莉は横浜の空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった―
この作品は、ノンフィクションではありませんが、単なるフィクションとも違います。実際にたくさんの「珠子」「美子」「茉莉」がいたことは想像に難くないでしょう。また、戦争や置かれた立場によって、いかに人が変えさせられてしまうかということが、かのじょらが出会う様々な大人たちの姿を通して語られます。それまでは助け合いながら生きていた人たちが、「○○人」「○○人」と互いに憎しみや怖れを持つようになる。同じ日本人同士でも、自分と家族を守るために他人を踏んで押しのける。第2次世界大戦後の描写は凄惨で、淡々とした文体が場面のむごさを際立てていました。
しかし3人の少女たちは、時代や環境、そして非情な人々に翻弄されながらも、一つのおにぎりを分け合った時に感じた気持ちを糧に、その後の苦しい日々を生き抜いていきます。それぞれ、差別に直面した時、人を押しのけようとした時、自分の存在を疑いそうになる時、なんの偏見も隔たりもなく、友達として助け合ったその瞬間を思い出し、勇気を得てもう一度踏み出すのです。周りに流されて無意識的に他人を傷つけていないか、「おにぎり」を思い出しては足を止めて考える、少女たちの素直さと強さに胸を打たれました。
考えさせられることがたくさんあって、また何度でも読み直したい、そうしてずっと大切に覚えていたいと思える物語でした。同時に、多くの人に読んでほしい、これを読んだらきっと色々なことがわかるのに、そうも思いました。(理)