朝鮮の麺
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季節は猛暑だが、秋を迎える9月号のイオを作成する日々。昨日は朝鮮の麺作りの取材だった。
特集するたびに毎回思うことだが、料理は奥が深い。その食べ方や作り方をひも解いていくと、庶民が工夫をこらしながら生きてきた日々を見るようだ。大げさにいうと5000年にわたる朝鮮の食の歴史が自分につながっているなぁと実感する。この間、朝鮮大学校で栄養学を教えるJ先生や薬膳料理のK先生に関連図書も紹介いただき、自分の中で麺の世界がどんどん広がっている。
…朝鮮では麺料理がよく食べられる。とくにおめでたい誕生日、婚礼、賓礼用には特別メニューとして麺が欠かせない。
麺の長い形状は、誕生日には寿命の長さを祈ることを意味し、婚礼では結縁の長さを願う意味に使われる。
朝鮮半島では農作の二毛作で小麦の栽培が出来るのは中部以南に限定される。ために小麦からの麺料理を日常食にするには足りず、特別な料理に扱われるようになったと考えられている。
ともあれ、伝統的な麺料理の代表は温麺、冷麺、ピビムミョン、カルクッス(手打ち麺)で、材料はそば粉、小麦粉、各種のでん粉などである。味付けはしょうゆ味だけのもの、ユッス(肉水)と呼ばれる肉味のスープは、古くは雉肉だが近頃は牛肉が多い…。
上記は全鎮植・鄭大聲編著の「朝鮮料理全集5―ご飯と麺類」(柴田書店、1986)によるが、興味深かったのは製麺業の発達に「仏教の寺院」が大いに関わっているという記述だった。
…高麗時代の10世紀からは仏教の全盛期に入る。寺院には多くの人が集まるし、その食事を作ることが要求される。…こうしたなかで、寺院は自己の消費する食糧のみでなく、他にそれを販売することも手掛けた。製麺業、製茶業、醸造業、野菜の生産などがその例である。
…大量の麺を作ることを必要とした寺院は、押さえ抜き型の「製麺機」を発明している…。
「文化麺類学ことはじめ」(石毛直道、1991、フーディアムコミュニケーション)も勉強になった。
…朝鮮半島の麺類は、製麺法のちがいにより、ネンミョンとカルックスのふたつに分類される。ネンミョンはソバ粉を主原料にした押しだし麺で、カルクッスはコムギ粉を主原料にした切り麺だ。
カルクッスの「カル」は包丁ということばなので、「包丁麺」、すなわち切り麺という意味になる。めんどうなのはネンミョンという名称だ。…ネンミョンには冷麺の漢字があてられ、冷たくして食べる麺という料理の名称でもある。麺に使用する麺がソバ粉を主原料とした押しだし麺であるために、麺自体の名称と麺料理の名称がおなじものになっている…
石毛さんは、山がちで冷涼な気候で、畑作で雑穀栽培をおこなった地域が「ネンミョン卓越地帯」となり、平野部が多く、温暖な気候の場所が「カルックス卓越地帯」となったと紹介している。「ネンミョン卓越地方」とは、平安道、咸鏡道、江原道、「カルックス卓越地帯」とは、黄海道、京畿道、忠清道、慶尚道、全羅道となる。
朝鮮の麺といえば、平壌冷麺が有名だが、今回は、日本のすいとんに似たスジェビ(写真)、温麺、ミビム麺など、地方の郷土料理や在日の食文化として親しまれた麺レシピを紹介する。
目玉はカルックスのレシピ。思えば、1世の祖母手づくりのカルクッスを一度だけ食べたことがあったっけ。
9月号では、本場の作り方を載せる予定なので、読者の皆さんもぜひチャレンジしてみてください。(瑛)