日本軍性奴隷問題、日韓合意で「解決」になるのか?
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昨年12月28日、日本と韓国は日本軍性奴隷問題をめぐって、「最終的かつ不可逆的に解決することを確認する」として、被害者を支援する財団を設立することを合意した。また、国際社会で互いの非難・批判は控えるとしている。
韓国国内では、被害者を無視した対応に批判の声があがっている。性奴隷被害者は朝鮮半島の北部を含め、アジア全域に散らばっているにも関わらず、なぜ日本と韓国だけで合意するのか―。この点についても被害国から異議が唱えられている。
果たして最終的に解決するとは?―支配、被支配の関係にあった国家同士が政治的に決着しようとも、被害者に受け入れられなければ、問題は永遠に「解決」することはないだろう。両国の為政者はそのことを見誤っている。
日本軍性奴隷制度は日本の国家による犯罪だ。安倍首相が総理大臣としてお詫びをしたとしても、とった措置は10億円拠出の財団設立。1995年の民間基金と同様、被害者が求めてきた国家による公式謝罪と補償、真相究明には、ほど遠い。被害者が一人ひとりなくなっていくなか、教育現場で歴史的な事実を教えることについては、言及すらない。合意もひどければ、日本のマスコミ報道も酷かった。
両国政府のだらしなさに加え、それを後ろで操るアメリカ―。私は、今回の合意に、日本の安倍首相と韓国の朴槿恵大統領の歴史認識が似通っていることを再度、確信した。昨年8月の「安倍談話」から、その流れはすでに仕組まれていたのだ。
…安倍談話は、アメリカの支配層、政権が基盤を置く日本の保守層、親日派の系譜を辿ってきた勢力―の3者に向けられたものだ。
日本国内の保守層に関しては、植民地支配の「贖罪の重圧」からの解放が目指され、彼らの歴史認識を是認する効果があった。談話は、安保戦略上、日韓関係の修復を目指すアメリカの顔色を伺いながら、中国、韓国に対しても一定の歴史認識の配慮を示す形を取っている。
朴槿恵大統領が、発足当初から日本に対して厳しい態度をとってきたのは、1990年代以降、軍事政権下で封印されていた民衆の記憶が噴出されたことが背景にある。2000年代に入ってからは、日本軍性奴隷問題への糾弾、08年の韓国の大法院判決などを受け、日韓条約で歴史問題を棚上げしてきた政府への怒りが噴出した。しかし実は、朴にとって歴史問題の解決を求める世論の負担は重く、今回の安倍談話によって朴は荷が軽くなり、日韓の連帯を取りやすくなった。
そのことを示すのが8月15日の朴の演説だ。安倍に対しては批判を抑制し、北に対しては厳しいトーンで批判した。この演説が今後の転回点になっていくのではと思う…。
(イオ15年10月号に掲載された「戦後70年談話と朝鮮植民地支配」から、リ・ビョンフィ朝鮮大学校教員の発言を抜粋)
ここで、13歳で日本軍の性奴隷被害者となったシム・ダリョンさん(享年83)を描いた韓国の絵本「コッハルモニ(꽃할머니)」(クォン・ユンドク著)を紹介したい。
シムさんは、山菜を採りに訪れた野原で姉とともに軍人2人に連行され、台湾、中国東北部、サハリンに連行され苦みぬいた。植民地解放後は軍人に捨てられ、精神に異常をきたした。預けられた韓国の寺院に妹が偶然に訪ねてきては、精魂こめて看病してくれたこと、妹が病死して初めて記憶が戻ったときは、故郷に会いたい人が誰もいなかったこと…。悲しみと再生の日々が綴られる。押し花が好きだったシムさんの柔らかな姿に、作家が被害者にとっての「癒し」を考え続けてきたことが伝わってくる。
絵本に出てくる軍人の顔はどれものっぺらとしており、顔のない絵も多い。それは、「『日本軍慰安婦』問題の発生と原因が、ある個人というよりも、国家、制度、慣習などにあったことを暗示している」(本書から)。
今、私たちがすべきことは亡くなった被害者たちの声を聞き、過ちを再び繰り返さない誓いを立てることだ。卑怯きわまりない「合意」に怒りがおさまらない。(瑛)