差別のある社会で生きている
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5月号の特集テーマは「ヘイトスピーチ」。深刻な差別問題が放置されている日本社会の状況がいかに異常なものなのか、主にカウンターと被害当事者たちの姿と言葉を通して多くの人に考えてもらいたいという企画だ。
私はこの間、川崎在住の在日コリアンらによる法務局への人権侵害被害申立(3月16日)、「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」の学習会(同日)、人種差別撤廃施策推進法案の成立を求める院内集会(3月17日)、また参院法務委員会の人種差別撤廃施策推進法案・参考人質疑の場(3月22日)を取材してきた。
こう書くと難しいが、ヘイトスピーチをはじめとする人種差別を日本社会からなくすために国内法を作ろうとする動きと、草の根で活動する人々の姿を見てきた。
上の写真は、川崎在住の趙良葉ハルモニと崔江以子さんが、川崎の法務局に人権侵害の被害申立をした時のようす。お二人は法務局に申告書を提出した後、これまでの被害の現状について、感じたことについて、そしてそんな状況を変えるためにやるべきことについて、自分の言葉で語っていた。同時に、目の前にある差別に対して行政もともに行動を起こしてほしいとお願いしていた。
冒頭で挙げた現場に行き、共通して強く感じたのは、草の根で頑張っている市民はたくさんいるが、「京都朝鮮学校襲撃事件」に代表されるヘイトスピーチ、差別の問題が、社会的にはまだまだ広まっていないということ。現場にいたことがないから、差別表現のターゲットではないから、そのような現実があるということを知らない、もしくは無関心な人がたくさんいる。
また、行政がはっきりと差別を禁止するような行動をなかなか起こしてくれなかったり、警察が排外主義者たちのデモを守るような行動を取っているということを被害当事者たちから聞き、とてももどかしい気持ちになった。どうみても差別であること、社会の脅威であることは明らかなのに、「マニュアルにないから」「法にないから」と一切対処しない現状には唖然。同じ人間なのに…。不条理に傷つけられている人たちの訴えを目の前で見ていて、どうして何もせずにいられるんだろう。本当に、怖いことだと思った。
参院法務委員会の審議にも参考人として参加した崔江以子さんは、「ヘイトスピーチによって傷つけられたことを訴えただけなのに、次はネット上での誹謗中傷を目にし、2重3重の傷を受けた」と話していた。
一方で、同じく参考人として招集された憲法学者の一人は、人種差別撤廃施策推進法案を成立させることについて難儀を示していた。理由はくどくどと述べていたが、私はそれをぼーっと聞きながら、「あー、現実を何も知らない、理論とにらめっこしている人の言葉だな…」と感じた。聞くと、ヘイトスピーチの現場にも直面したことがないという。
「(ヘイトスピーチを受けた時の気持ちは)大体の想像はつきますけど」という言葉をポロっとこぼした時、この人は、人種差別の問題を自分とは全く違う世界のこととしてしか考えてないんだなと実感して軽く絶望した。「綺麗な法律にしないと」という言葉も聞こえて、これにはゾッとした。目の前の問題についてそれほどまでに無関心なのだったら、口をつぐんで何も言わないでほしい。なんでわざわざ顔を出して被害者たちの気持ちを踏みにじるようなことをするのだろう。私には専門知識もないし幼い考えかもしれないが、本当に腹立たしかった。
他にも、取材を通して感じたこと、考えたこと、許せないと思ったことがたくさんある。普段はかき消されてしまう市民たちの言葉や思いを少しでも多く誌面に反映させたい。
差別が当たり前のようにある今の日本社会の状況を、少しでも変えるきっかけになればと思っている。(理)