二人の訃報
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長年、記者生活を送っていると、多くの人と出会う。多くは同胞の方たちだが、日本の方たちも少なくない。
今月に入り、取材の中で出会った日本の方たちの訃報が二つ飛び込んできた。
一人は、1世ハルモニを描いた一人芝居「身世打令(シンセタリョン)」を演じてきた新屋英子さん。新屋さんは2日、急性心不全のため大阪府富田林市内の病院で死去した。87歳だった。新屋さんの「身世打令」の上演は2000回以上にもなると報道されていた。
新屋さんとは、イオ編集部の前にいた編集部で働いていた時にお会いした。何かの政治的な集会の時で、新屋さんはそこで一人芝居をされていた。打ち上げの時にお話したことを覚えているが、どのような会話だったのか、その内容はまったく覚えていない。新屋さんは在日朝鮮人との交流も深かった。
もう一人は、演出家の蜷川幸雄さん。12日に肺炎による多臓器不全のため、東京都内の病院で死去したと伝えられ、告別式などに多くの著名な俳優の方々などが参席されている姿が報道されていた。80歳だった。
蜷川さんは、月刊イオの98年8月号の誌面にインタビューで登場していただいた(写真)。そのインタビューを担当した。蜷川さんといえば、「灰皿が飛んでくる」と言われるほど厳しい指導が有名で、インタビューの際も非常に緊張したが、まったく厳しさはなく、ニコニコとこちらの質問に答えてくださった。
記事のタイトルは「ぶくぶく太るな、現状を否定しろ」。朝鮮民主主義人民共和国に帰国した同級生のことや、「政治の時代」を生きた若い頃の話をしていただいた。
記事の中に次のような一節がある。「…若い奴が太っていると怒るんだよ。現状に満足するな、否定しろと言ってるんだよ。ぶくぶく太るということは、現状に満足していることの象徴に見えると」。非常に印象深い言葉で、「ダイエットしないと」と深く反省したことを今も覚えている。
お二人とは、取材の後、個人的に交流があったわけではないが、印象深い出会いだったと思っている。
月刊イオで、日本の芸能人のインタビューを掲載しないようになって久しい。日本政府の「反北朝鮮、反総聯」キャンペーンが大々的に繰り広げられ、日本社会全体に「反北朝鮮、反総聯」の雰囲気が覆いかぶさっていることも大きな理由の一つだ。
月刊イオは創刊から20年を迎えるが、そのタイトルには、在日同胞社会の代を継いで民族の心を伝えていこうという思いがこめられている。20年がたった今、それに加えて、朝鮮半島と日本、在日朝鮮人と日本人をつなぐ役割を担うことを願って編集してきた。
これから、日本の対朝鮮政策、在日朝鮮人に対する政策が改善されることを願い、もっと多くの日本の方々に、誌面に登場していただきたいと思っている。
お二人のご冥福を祈りたい。(k)