東京無償化裁判第10回口頭弁論~669人が傍聴へ
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62人の東京朝鮮中高級学校生徒たちが無償化への適用を求めた高校無償化裁判第10回口頭弁論が5月25日、東京地裁で行われた。
14年2月の提訴から2年が過ぎ、10回を迎えた裁判には、東京朝高の1年から3年までの全校生をはじめ669人が抽選券を求めて長い列を作っていた。600人を越えたのは初めてで、今までで最多。傍聴席は白いポロシャツがまぶしい朝高生たちが席を埋め、裁判を注視していた。
裁判が始まった当初は3人の裁判官全員が女性だったが、この間、裁判官は二人、入れ替わり、この日は裁判長が変わった。3人全員が男性。今までの議論をしっかり受け止めて判決を下してほしい。
口頭弁論では、原告側弁護団から重要な意見書が提出された。教育法、行政学を専攻する安達和志・神奈川大学大学院教授が執筆した15000字からなる意見書は、文科省が東京朝鮮高級学校を不指定にした処分が違法であることを、専門家の見地から述べている。
文科省は、自民党が選挙で与党となった2日後の2012年12月28日、朝鮮高校生が就学支援金を受給するための根拠規定だった「規定ハ」を削除する省令改悪を発表し、翌13年2月20日に省令改正を公布し、不指定処分を通知した。
国はこの裁判で、朝高不指定の理由を二点主張している。一点目は、規定ハを削除したから。二点目は、規程13条に適合すると認めるに至らなかったから。
この点、安達意見書は「論理的に両立しがたい二つの理由を併記してなされた処分は、そもそも正当な理由提示を兼ね備えたものとはいいがたく、『13条に適合すると認めるに至らなかったこと』が本件処分の主たる理由であるとする被告の主張には重大な疑念がある」と喝破した。
安達意見書を具体的に見よう。
●規定ハの削除について
規定ハの削除は、特定の外国人学校を排除する目的で行われたと見るほかなく、「広く後期中等教育段階に属する生徒に係る教育費負担を軽減するため」に、「高等学校の課程に類する課程を置く」すべての教育施設を支給対象にすることとした法の委任の趣旨に反し、その委任の範囲を逸脱している点で違法である。
●規程13条をもって不指定としたこと
この定めは、学校運営の法令適合性を全面的・包括的に審査する趣旨ではない。就学支援金の支給や使用を適正に行うために必要な限りにおいて、学校運営の適正さを確認することで足りる。それを、ハに規定する学校についてのみ、教育課程の客観的な位置付けとは離れて、就学支援金の授業料債権とは無関係な事項についてまで審査することは、本件規則の委任を超えるものだ。
※規程13条とは、規定ハの指定に関して設けられた基準が書かれたもので、この正式な条文は「…指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない」というもの。
他にも国の違法性を論理的についている。
●高校無償化法2条1項5号は、「高等学校の課程に類する課程」に関する教育専門的・技術的な基準や客観的な評価方法等を定めることを文科大臣に委任したにすぎず、文科大臣の裁量はその範囲に限定されており、教育課程とは無関係な事情を考慮して指定対象を選別することについては、文科大臣は何らの裁量権も有しない。
●不指定処分は、教育基本法16条で禁じられた「不当な支配」の理解につき、著しい判断の誤りがあり、違法である。実際には「不当な支配」にあたるとの確証もないまま、その疑いだけで指定基準への適合性を否定している。
安達教授の意見書は、2010年からの6年間に、文科省や時の政権党が繰り返してきた超法規的で、乱暴で、朝鮮高校生の権利を不問にした国の差別が論理的に整理されている。裁判官にしっかり読んでほしい。
閉廷後、衆議院第一議員会館では、1時間にかけて報告集会が行われた。李春熙、金舜植、康仙華、師岡康子弁護士が参加。口頭弁論について解説した李弁護士は、今回、初めて専門家の意見書を提出した意義について述べ、「高校無償化法は、国連・社会権規約に基づき、学ぶ権利を広く保障するための法律だという本質を伝えたかった。対象校をより分けて、はずす裁量は文部科学大臣にはない。裁判官には、法律の目的に戻って考えてほしい」と訴えた。
今後、裁判は、原告側が求めている国の内部文書の開示がなされた後、それに基づき、原告側が反論し、次の国の反論、証拠調べ、結審、判決という流れになっていく。前の第9回口頭弁論の記事で、国が虚偽の説明をしていることが明かされつつあるという説明をしたが、「不指定処分の本当の理由は何か」を証明することに原告弁護団が心血を注いでいることがよくわかった。一方の国は差別を差別とみなされないよう、裁判所をいいくるめようとしている。ウソの上塗りをどこまで続ける気だろうか。
次に文部科学大臣が3月29日に28の都道府県知事に出した通知について田中宏・一橋大学名誉教授から解説があった。田中名誉教授は、「通知は、国連・人種差別撤廃委員会の『補助金の復活・維持』を求める勧告にはまったく言及していない。同委員会への次の報告期限は2017年1月。日本政府はどうするつもりなのか。大臣の通知には大きな欠陥と錯誤がある」と非難した。また、3・29通知に反対する「研究者有志の声明」が注目されるとして、「該当する28の都道府県の研究者を網羅している。自治体への働きかけを期待したい」と述べた。
当事者からの発言も続いた。慎吉雄・東京中高校長は、「教員を45年務めてきたが、財政的に非常に厳しい時期にある。人件費を払えずに学校を運営している地域も多い」と苦しい心中を述べながら「交渉を有利にするために子どもを人質にして、傷つける日本政府のやり方については納得できない」と声を震わせた。保護者のリュウ・スニさんも、「私たちが闘いぬくために必要なことは連帯だ。その連帯にくさびを打ちこもうとする人がいる。今は仲間割れしないことが何より大事なこと。皆さん、裁判で必ず勝ちましょう」と切願した。
報告集会では、毎回、朝高生たちの発言があるが、この日は高1、2、3の生徒3人と朝大生の4人が発言した。印象に残った高3の女生徒の言葉を紹介したい。
「当事者になり、金曜行動にも参加したが、避けるように足早に通りすぎる人や、あざ笑うような蔑視を感じ、やるせなくなるときもあった。
…裁判の報告集会で勝利の自信に満ちた雰囲気に圧倒され、感動したことを今でも覚えている。弁護士の先生方が朝鮮高校に無償化が適用されるべきと強く主張する姿は、朝高生としての大きなプライド、自信になった」
毎回、裁判や金曜行動に朝高生や朝大生を見ると、私自身もやるせない気持ちになるが、本当に朝高生は毎回毎回、自分の言葉で、自分の気持ちで裁判を闘っている。この日も朝高生たち約400人は、裁判が終わった後、文科省に赴き、30分間、無償化を求めるアピールをした。
次回、第11回口頭弁論は8月31日(水)11時から東京地裁103号法廷で。
6月12日に東京中高で行われる創立70周年文化祭についても告知があった。みなさん、ぜひ東京朝高へ!(瑛)