朝鮮籍者に求められる誓約書―3ヵ月で終了に
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日本政府が朝鮮への制裁処置を発表した2月10日以降、海外に行く「朝鮮籍」者の大人たちに書かせている誓約書のことは、このブログでも何度か話題にしてきました。
何を誓約させるのかと言うと、出国ゲートを通過する時に入管職員に「北朝鮮に行きますか?」と聞かれ、「行かない」とか「他の国に行く」と答えた人には「北朝鮮には行きません」と文書に署名させ、誓わせるのです。まるで踏み絵ですね。
この間、個人的にもこの誓約書に対してどう対応すればいいのか、という質問を受けてきました。仕事や旅行で海外に渡航する自由は外国人にも当然ありますが、出国ゲートでこんなことをされたら、どうなるか―。
誓約書を拒否すると、飛行機に乗られなくなる―。
再入国許可を取り消されるのではないか―。
このような不安は当然襲ってきます。日本政府はこの不安を逆手に取り、朝鮮籍同胞をターゲットに「制裁」を課してきました。
しかし、この間、在日本朝鮮人人権協会をはじめ、同胞たちの抗議により、5月末で誓約書を書かせるという不当な対応は終わりを告げました。当然のことです。しかし、これをなかったことにはできない。
3ヵ月間、行われた入管による人権侵害を7月号の「親子のための月刊イオNEWS」の誌面で紹介しました。
金東鶴・在日本朝鮮人人権協会副会長による親子向けの解説記事です。
全文掲載するので、参考にしてください。拡散大歓迎です!(瑛)
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Q:空港や入管事務所で書かされる「誓約書」って?
ヨンシル:空港を出るときや、入管事務所に再入国許可書を取りに行くときに「北朝鮮には渡航しません」という「誓約書」を書かされると聞いたんやけど、ほんまなん?
アッパ:日本政府がいわゆる「対北制裁措置」を発表した今年の2月10日以降、「朝鮮籍」の大人たちが空港などの出国ゲートを通過するとき、「北朝鮮に行きますか」と入管職員が訊いてきて、「行かない」とか、「他の国に行く」と答えた人には、「北朝鮮には渡航しません」と書いてあるものにわざわざ署名をさせてんねん。ヨンシルはまだ高校生やから対象にはならんようやけど(法務省は18歳以下は対象にしないと言っている)。
ヨンシル:なんやえらい感じ悪いなあ。ほな、ウリナラ(朝鮮民主主義人民共和国)に行くと答えた人はどうなんのん?
アッパ:あんたは核技術者か? ミサイル技術者か?ということを尋ねる「質問票」いうのが出されて、「はい」か「いいえ」と書いて、署名することになってる。原子力分野、ミサイル分野に関し、「技術者、研究者として通算して2年以上業務に従事したことがありますか」と聞かれるんや。
ヨンシル:なんや、逆にそれだけかいな。ちょっと拍子抜けやなあ。ウリナラに行くときに求められる「質問票」より、ウリナラに行かないときに「渡航しません」と誓わされる方がなんか抵抗あるなあ。
アッパ:そうや、何で自分の祖国に行く権利を放棄するみたいな誓いをせなあかんねん。おまけに2月頃に使われていた「誓約書」の様式には、「北朝鮮に渡航したことが確認された場合には再度上陸が認められないことを承知した上で出国します」とまで書いとった。
ヨンシル:そんなんいっぺんでも書いたら、今後一回でも行くと帰れなくなるみたい。
アッパ:ほやからアッパも法務省や入管事務所に文句ごっつう言うたんや。朝鮮に行ったらアカンことになってるわけでもない人にそこまで誓わせるのはおかしいやろって。しかも期限も付けんと「渡航しません」はないやろって。
ほな、おもろいで。法務省も3月に入った頃から「再度上陸が認められないことを承知した上で出国します」って書き方はやめて、「核・ミサイル技術者が北朝鮮に渡航したことが確認された場合には、再入国許可の取消しなどの処分を行う場合があります」というふうに変えてきよった。
さらに4月に入ってからは、「おかしい」と主張する新聞記事も出だして、国会でも議員からおかしいやろって話が出てきたんや。
そこで4月中旬からは、法務省は「今回の出国後、日本へ再入国するまでの間」という期間限定の文言も入れるように空港とかの現場に指示しだしたんや。
Q:なんで、「北朝鮮に渡航しません」と誓わなくてはならないの?
ヨンシル:だいぶとマシにはなってきたんやなぁ。でも祖国に渡航しませんと誓わされることには変わらへんのやろ。
アッパ:そうや、ええつっこみや。少なくともこんな「誓約書」はなくさなアカン。
期限つけた言うてもな、入管事務所でマルチ(数次)の再入国を取る時、今は6年の許可期間があるんやけど、その期間内はずっと「北朝鮮には渡航しません」と誓えというんや。 6年もの間には、祖国に行きたくなる時や、行かなアカン時が出てきてもおかしないやろ。空港かて、今回の渡航時においてという期間限定になったいうても、極端な話、渡航先で朝鮮におる親族が危篤やっちゅう連絡が来て駆けつけたいときなんかもありうるやろ。
在日同胞を再入国の「許可」の対象にすること自体、おかしいんや。日本が加入している国連・自由権規約委員会でも、だいぶと前から、日本で生まれ育った在日朝鮮人がその永住国である日本に帰るのは権利として認めなアカン、そやから「許可」する、せえへんやのうて、ちゃんと保障しろと日本に言うてんのや(1998年勧告)。
ヨンシル:ほんま、考えれば考えるほど腹立つな。でも空港で書かんいうて出国手続きが進まなくなって飛行機乗り遅れたら大変やしな。
アッパ:実際、アッパの周りでも署名拒否して出国した人は結構おるし、それで出国も、日本への再入国も、問題なしにできてるで。出国時、拒否したら少し時間がかかることはよくあるみたいやけどな。「上に対応を相談する」みたいなことでな。
アッパは、この「誓約書」だけは絶対署名せえへん。入管事務所での再入国許可申請時も、出国ゲートでも、自分の祖国に行く可能性は常にあるし、いつ何時もその権利を自ら放棄することはせえへん、と言い張る。
みんなが、各自できる範囲で抵抗の意思を示し、アホな「制裁」措置自体を、はよやめさせなアカン。
※本稿は、5月23日に書かれた。法務省は、5月末頃に「誓約書を求めないでいい」という主旨の指示を出し、3ヵ月以上に渡る不当な対応は終了することになった。
しかし、朝鮮を渡航先とする在日同胞に対する「質問票」への署名は引き続き求められている。