大阪補助金裁判結審と千葉県弁護士会会長声明
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大阪府と大阪市を相手取って、府、市内の朝鮮学校に対する補助金を不支給とした処分の取り消しと交付の義務づけを求めた裁判(2012年9月提訴、以下、大阪補助金裁判)が8月9日、大阪地方裁判所で行われた第20回口頭弁論でついに結審した。
提訴から4年、長期の裁判を締めくくる最終弁論で原告の大阪朝鮮学園側はこれまでの主張を128ページにおよぶ最終準備書面にまとめて提出。法廷で弁護団が①本件不交付の違法性と②本件の本質について要旨陳述を行った。
「イオ」編集部はこれまで無償化裁判も含めた現在係争中の朝鮮学校関連の裁判の傍聴に何度も足を運び、誌面や本ブログなどを通じて経過を伝えてきた。当然、今回の最終弁論の場にも駆けつけるべきだったが、雑誌編集作業のもっとも忙しい工程と重なってしまい、断念せざるを得なかった。この日の最終弁論の内容は「無償化連絡会大阪」のウェブサイトに詳しい。
http://www.renrakukai-o.net/pg939.html
判決の言い渡しは来年2017年の1月26日、13時30分からだ。
朝鮮学校に対する補助金不支給の問題に関しては、各界から反対の声が上がっている。法曹界からも日本弁護士連合会や各地方の弁護士会が会長声明を発表している。直近では千葉県弁護士会が今月23日付で声明を発表した。
http://www.chiba-ben.or.jp/%e6%9c%9d%e9%ae%ae%e5%ad%a6%e6%a0%a1%e3%81%ab%e5%af%be%e3%81%99%e3%82%8b%e8%a3%9c%e5%8a%a9%e9%87%91%e5%81%9c%e6%ad%a2%e3%81%ab%e5%8f%8d%e5%af%be%e3%81%99%e3%82%8b%e4%bc%9a%e9%95%b7%e5%a3%b0%e6%98%8e
上記リンク先からも閲覧できるが、本ブログでも以下に全文を貼り付ける。
朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明
声明の趣旨
当会は、
1 文部科学大臣に対し、2016年3月29日付「朝鮮学校にかかる補助金交付に関する留意点について(通知)」の撤回を求める。
2 朝鮮学校に対する補助金の交付を現在停止している地方公共団体に対し、憲法や条約上の子どもの権利に配慮し,補助金を交付することを求める。
3 朝鮮学校に対する補助金の交付を現在行っている地方公共団体に対し、補助金交付の継続及び憲法上や条約上の権利に合致した運用の改善を図ることを求める。
声明の理由
1 文部科学大臣は、2016年3月29日、「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」(以下「本通知」という)を都道府県知事宛に発出した。本通知では、「朝鮮学校に関しては、我が国政府としては、北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしているものと認識しております」とし、「朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討とともに、補助金の趣旨・目的にかなった適切かつ透明性のある執行の確保及び補助金の趣旨・目的に関する住民への情報提供の適切な実施」を求めている。
本通知に先立つ2015年6月25日、自由民主党北朝鮮による拉致問題対策本部は、「対北朝鮮措置に関する要請」の中で「朝鮮学校へ補助金を支出している地方公共団体に対し、公益性の有無を厳しく指摘し、全面停止を強く指導・助言すること」を提言し,続いて、2016年2月7日、自由民主党は「北朝鮮による弾道ミサイル発射に緊急党声明」(以下「緊急党声明」という)を発出し、上記提言を速やかに実施するよう求めている。
その緊急党声明から2か月足らずで文部科学大臣は本通知を発出したのである。
本通知を受けて、新年度から補助金の交付の一部もしくは全額の停止することを表明している地方公共団体があり、各地の朝鮮学校に多大な影響が生じている。
かかる経緯に鑑みれば、文部科学大臣の本通知は、本来各地方公共団体の判断と責任において行われるべき補助金の交付について、外交的な理由により各地方公共団体による朝鮮学校への補助金交付の停止を促すものと言わざるを得ない。
2 すべての子どもには、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする権利が認められ(憲法26条第1項)、各種学校への補助金の交付もかかる学習権を実質的に保障するものである。そして、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)13条はすべての者の学習権を認め、無償教育を求めている。
朝鮮学校においては、児童・生徒の国籍は朝鮮籍、韓国籍さらには日本国籍と多様であり、また、朝鮮語により教育を行い、朝鮮民族の文化、歴史を教えるという特徴はあるものの、学習指導要領に準じた教育が行われている。
それにもかかわらず、朝鮮学校に通う児童・生徒には関係のない外交問題を理由として朝鮮学校への補助金交付を停止することは、かかる児童・生徒たちの学習権を侵害することはもとより、憲法14条、世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)、子どもの権利に関する条約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)が禁止する不当な差別に該当する。2014年8月に採択された人種差別撤廃条約の最終見解においても朝鮮学校に対する補助金交付の停止等について「在日朝鮮人の子どもの教育を受ける権利を妨げる法規定及び政府の行動について懸念する」との指摘がなされている。
3 特に朝鮮学校については、朝鮮半島が日本国により植民地支配されたときに朝鮮半島から日本国の産業のために移住させられた人々が、戦後、朝鮮民族の言葉、文化、歴史を子孫に残すために作られたという経緯に思いをいたすことが重要である。
もとより民族教育は子どもの権利に関する条約30条においても保障されているところであり、朝鮮学校についても「民族教育を軸に据えた学校教育を実施する場として既に社会的評価が形成されている」学校であるとされている(大阪高判平成26年7月8日)ところであるが、朝鮮学校における民族教育についてはこのような歴史的視座を切り離して考えることはできない。
4 何より忘れてならないのは、朝鮮学校に対する処遇の問題は、北朝鮮の問題ではなく、日本国内の人権問題であるということである。とりわけ朝鮮籍、韓国籍を有する方に対するヘイトスピーチが拡がっている現状において、政府が本通知を行うことは、朝鮮学校に通う児童・生徒たちに日本社会からの疎外感を与えるとともに、かかる人権侵害行為を助長する可能性があり、到底容認できるものではない。このような展開は、先般成立したいわゆるヘイトスピーチ解消法の趣旨にも反しているといえる。
5 以上の点を踏まえ、当会は、文部科学大臣に対し、本通知の撤回を求める。そして、千葉県ほか既に朝鮮学校に対する補助金交付を停止している地方公共団体に対し、上記憲法上の権利及び条約の趣旨に配慮して補助金を交付することを求めるとともに、現在補助金を交付している地方公共団体に対し、国家間の外交問題と朝鮮学校に対する補助金交付を安易に結びつけることなく、補助金の交付を継続すること、憲法上の権利及び条約の趣旨に合致した運用の改善を図ることを求めるものである。
2016年8月23日
千葉県弁護士会
会長 山村清治
(引用ここまで)
(相)