朝鮮学校への補助金支給に関して各都道府県弁護士会から声明
広告
さる3月29日に文部科学大臣が出した地方公共団体の朝鮮学校補助金に関する通知(3.29通知)が地方公共団体による補助金停止を促す方向に強く働くことに対しての懸念が広がる中、各都道府県の弁護士会から通知の撤回と補助金の適正な交付を求める会長名義の声明が相次いで発表されている。
9月28日には茨城県弁護士会(山形学会長)が声明を発表した。声明は、文部科学省に対して「3.29通知」の撤回を、都道府県および市町村を含む各地方公共団体に対しては、憲法および各種人権条約の趣旨を踏まえ、朝鮮学校に対する適正な補助金交付がなされるよう求めている。
各都道府県弁護士会の声明は、ここ最近のものだけでも、神奈川県(8月17日)千葉県(8月23日)、和歌山県(9月9日)の弁護士会から出ている。朝鮮学校を取り巻く状況は依然として厳しいが、法律の専門家たる弁護士たちが「おかいしいことはおかしい」と声を上げてくれることは本当に心強い。
また全国青年司法書士協議会も同日付で「朝鮮高級学校就学支援金及び朝鮮学校補助金についての意見書」を発表した。
今回出された茨城県弁護士会の会長声明の全文を以下に貼り付ける。(相)
朝鮮学校に対する補助金交付に関して、政府通知の撤回及び適正な補助金交付を求める会長声明
声明の趣旨
当会は、文部科学省に対し、2016(平成28)年3月29日に同省が発出した「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」の速やかな撤回を求めると共に、各地方公共団体に対し、朝鮮学校に対する適正な補助金交付がなされるよう求める。
声明の理由
1. 文部科学省は、本年3月29日、朝鮮学校を各種学校として認可している28都道府県に対し、「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」を発出した(以下「本件通知」という。)。 本件通知は、「北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしている」という政府の認識を明確に示した上で、朝鮮学校を各種学校として認可している28都道府県に対し、補助金交付に関し、「朝鮮学校の運営に係る上記のような特性も考慮」することを求めているものである。 本来、補助金交付は、各地方公共団体の判断と責任において行われるものである にもかかわらず、政府がこのような通知を発出することは、政府が外交上の理由から朝鮮学校に対する補助金交付の中止を促している趣旨であると受け止めざるを得ないものである。 現に、報道によれば、茨城県知事は本年4月8日の定例記者会見において、「文部科学省に、通知の主旨をしっかり確認しながら対応をしていきたいと思っております。」と述べつつも、「相手方(学校法人茨城朝鮮学園)には、今のような状況が続くようであれば、今年度の補助金については、交付することは大変困難なのではないかということをお伝えしてあります。」と述べ、「今のような状況」とは、「弾道ミサ イルを発射したりとか、そういった活発な活動が行われておりますので、そういった状況が続いているようであればということです。」と述べている。 このように、一部地方公共団体では、本件通知を受けて、外交上の理由から朝鮮学校に対する補助金の交付について停止の方向で検討を余儀なくされているものである。
2. そもそも、朝鮮学校に対する補助金交付は、子どもの教育を受ける権利や民族教育を受ける権利を実質的に保障するために行われている措置であって、補助金交付にあたっては、教育上の観点から客観的に判断されなければならない。 それにも関わらず、北朝鮮のミサイル発射等の外交上の理由で、朝鮮学校に対して補助金交付を停止することは、子どもの教育を受ける権利や民族教育を受ける権利を侵害するものであって、憲法26条、子どもの権利に関する条約第30条、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約(人種差別撤廃条約)に違反するものである。 また、朝鮮学校に在籍する生徒とは無関係な外交問題を理由として朝鮮学校へ の補助金を停止することは、憲法第14条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約(人種差別撤廃条約)及び子どもの権利条約が禁止する不当な差別に該当するものである。
3. とりわけ、朝鮮学校に対しては、昨今、ヘイトスピーチをはじめとする人種差別的攻撃が多数加えられており、深刻な事態が生じている。 かかる状況において、政府が本件通知を発出することは、朝鮮学校に対する人種差別を助長することにもなりかねない。本年6月3日に公布・施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」では、不当な差別的言動が許されないものであることを明らかにし、国が差別的言動の解消のための取組に関する施策を実施する責務が規定されているのであって(同法第4条1項)、政府が本件通知を発出することは、同条1項にも明確に矛盾するものである。
4. 当会は、以上の理由から、文部科学省に対しては、本件通知の速やかな撤回を求めるとともに、都道府県及び市町村を含む各地方公共団体に対しては、朝鮮学校に対する補助金の支出について、上記の憲法及び各種人権条約の趣旨を踏まえ、適正な交付がなされるよう求めるものである。
2016(平成28)年9月28日
茨城県弁護士会
会長 山形学