記者が記録した桜本の闘い「ヘイトデモをとめた街」
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神奈川新聞の連載「時代の正体 ヘイトスピーチ考」を再構成した、「ヘイトデモをとめた街―川崎・桜本の人びと」が出版されました。
社会福祉法人青丘社を中心に40年以上、民族差別のない多文化共生の街づくりに取り組んできた桜本に、ヘイトデモが襲ってきたのは2015年11月8日。川崎市ではそれまで10回のヘイトデモが行われていましたが、桜本地区が標的になったのは初めてのことでした。
本書は、ヘイトデモに立ち向かう桜本の闘いの記録です。
共生の街づくりを担ってきた青丘社の職員や地元住民、カウンターたちなどヘイトデモに抗う人びとの訴えや、現場の緊迫感が詳細に伝えられています。
日常の生活圏に「殺せ!」を叫ぶヘイトが押し寄せてくる衝撃、この街にレイシストは絶対に通さないという必死の覚悟、共生に対する人びとの切実な願いがひしひしと迫ってきます。
今年5月23日にヘイトスピーチ解消法が成立し、流れは変わります。川崎市はヘイトデモに対して公園の使用を不許可。デモは大勢の市民に阻まれ中止に追い込まれました。印象的なのは、カウンターの排除を求めるデモ側に「できない」「これが国民世論の力」と答えた県警の変化。不十分ながらも「法」の力を実感させる場面です。
多文化共生の対極にあるのがヘイトデモ。桜本が築いてきた共生の歴史は、ヘイトデモが桜本を標的にしたのも、桜本の人びとが初めてヘイトデモを阻止できたのも、偶然ではないということを改めて考えさせてくれます。
本書にはまた、差別と偏見に対して妥協しないという記者の強い意志が貫かれています。
「ヘイトスピーチに中立はない。被害にさらされている人たちに肩入れする。それは偏っていることでも、不公平なことでもない」と、「記者の視点」で臆することなく主張しています。
この闘いの記録を、是非一度読んでみて下さい。(S)