映画「弁護人」を見て
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公開中の映画「弁護人」は、韓国の第16代大統領(2003~08年)だった故・盧武鉉が人権派弁護士として目覚めていく姿を描いた作品だ。
舞台は1980年代の韓国・プサン。
高卒で司法試験に受かり判事になるも、学歴社会の差別に嫌気が差し弁護士になったソン・ウソクは、不動産登記の仕事で夢に見た「安定」を手にした。
そんなある日、ソンは苦学していたころから世話になっていたクッパプ屋の息子・チヌが不穏な読書会を開いた容疑で捕まり、突然、母親の前から姿を消したことを知る。
ようやく実現された接見の場で目にしたチヌの拷問の痕-。
国家保安法に人権の理念などない。自白を強要し、でっちあげられた事件を証明していく道のりには高い壁が立ちはだかる。弁護人を引き受けたことで、ソンの家族は脅かされ、仕事も減っていった。
「壁」の象徴として、映画ではチャ・ドンヨンが冷酷非道な警監として描かれる。拷問に手を染めるチャに罪の意識はなく、「戦争は終わっていない。われわれに感謝すべきだ」と警察権力を正当化する姿は、まさにこの国の「闇」だ。
弱者の人権より、国の繁栄-。映画では軍事独裁政権によって犠牲になった無辜の市民を浮かび上がらせる。その市民のなかでソンは自らの磁場をみつけ、「敵」を作るためのスケープゴートにされた、チヌら大学生に「無罪」をもたらすべく、無謀ともいえる闘いを挑むのだった――。
見所はソン・ガンホの迫真の演技。ささやかな日常をとりもどすため、葛藤を繰り返しながら、泥臭く、愚直に生きる姿に心が揺さぶられる。
ヤン・ウソク監督が盧大統領に注目するようになったのは、政治家に転身した彼が、政局の大きな変化の中であえて厳しい選択を取った姿からだったという。
主演のソン・ガンホさんは上映公開に合わせて来日。記者会見の場で、「この時代を貫いた人たちの民主主義への熱望を描きたかった」と話していた。
「厳しい経済状況の下で苦労している今時の若い世代…かれらを元気づけて前向きにさせるような話を届けたい」とのヤン監督の言葉に、現在の故郷の姿が重なる。
映画は、来年初めまで各地で公開される。(瑛)
Unknown
この映画、韓国では1千万人が観た超メガヒット作だそうですが(2013年公開)、少し調べてみたところ、日本でのレビューでは「不要な描写が冗長で眠くなる」「編集がヘタ」みたいな批判をちょこちょこ目にしました。
で、この『弁護人』。たしかに「社会派映画」なんですけど、どうやらその手の「おカタい映画」とは切り口がちょっと違っているみたいです。
「若い頃の盧武鉉がモデル」とかそういう「いかにも」な事前情報は、一度頭から完全デリートして視聴した方がいいかもしれません(紹介してくださった(瑛)さんには悪い気がしますが。苦笑)。
なぜわざわざそんなことを勧めるのかというと、本国での第1弾劇場予告がこんな作りだったので ↓。
ttps://www.youtube.com/watch?v=ZFlA0GSxX8g
同作が韓国でメガヒットを飛ばした(そして一部日本人レビュアーが「眠い」と批判した)理由は、おそらくここにあるのでは、と。
これ以上書くとさらに不要な事前情報が増えてしまうのであとはご遠慮いたしますが、まったく知らなかった作品ですし、私もぜひ劇場で観てみたいと思います。
以下蛇足。
日本で今年久々に1千万人を動員した映画が『君の名は』…。なんだかもう、邦画界の危機的状況が伝わってきそうな比較です(笑)。