京都朝鮮学校襲撃事件裁判の原告が、広島でトークイベント
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広島朝鮮初中高級学校で11月19日、秋のトークイベント「すぐ横にあるヘイト~知れば、未来が見えてくる!~」が、同校やオモニ会などの主催で開かれた。
トークや質疑応答が昼の部・夜の部の2回に渡り行われ、保護者、地域同胞、日本の方、朝高生、教員など、合わせて230人が参加した。
当日は朝早くから、オモニ会や教員たちが会場づくりをはじめ、イベントを成功させよういう熱い思いで活気づいていた。暖かいコーヒーと軽食を用意し、別のコーナーではヘイトスピーチや差別に関する書籍の展示、販売も。パネルには広島初中高の歴史が、たくさんの写真とともに紹介された。
講師として招かれたのは、京都朝鮮学校襲撃事件裁判の原告であり、事件発生時に旧・京都朝鮮第1初級学校のオモニ会会長だった朴貞任さんと、龍谷大学法科大学院教授で当時の同校保護者でもある金尚均さん。
冒頭では、事件当時の保護者が編集した、被害の実態を伝えるDVDが流された。続いて朴貞任さんが、2009年から翌年にかけての在特会による3度の襲撃、当時とその後の子どもたちのようす、ネットであふれる差別発言、教員室で鳴り止まない脅迫電話など、事件の深刻さを詳細に語った。
また、被害者が自己否定に陥ってしまうヘイト被害の怖さ、新聞やメディアに取り上げられずネットでの誹謗中傷やデマだけが垂れ流される恐ろしさについても話した。
2010年に保護者の中で訴訟を起こそうという提案があったときは、「勝てるはずがない」と否定的な意見が多かったが、自己否定によって自らが無力化されている現実に気付かされ、「子どもたちを守るすべはこれしかない」「私たちの誇りを守ろう」と提訴に踏み切ったという。
事件から5年後、約20回の法廷を経て最高裁での勝訴が確定。
「欠かさず法廷に駆けつけたオモニたちの思いは多くの日本の方の良心に響き、司法の扉を開きました。また、98名の素晴らしい弁護団、情勢に左右されず自身の問題として手を差し伸べ、いつも傍聴席をいっぱいしてくれた日本の市民の方々がいなければ、この過酷な裁判闘争の日々を乗り越えることはできませんでした」(朴さん)。
朴さんは最後に、こう話した。
「私たちが黙っていれば、この事件も事件にならなかったと思います。選択と覚悟を強いられる数々の場面で、私が一番大切にしていることは、未来に向けて、つまり子どもたちに向けて、恥じない選択をしようということです。もう一度、私たち自身が権利を堂々と主張し、何度も何度も確認し再構築していくことが大切です。ぶれない心で頑張りましょう。 …… 京都や徳島での裁判で、民族教育の評価・権利を判例として残せるとは、裁判当初は想像もつきませんでした。これは、私たちが今後子どもたちを守っていくための糧となります。思いを、日本の司法に届けるべきです。次は広島の番です。私も、この裁判経験を全国の無償化裁判につなげていくため、共に闘っていきます」
金尚均さんは、「民族的アイデンティティの回復のためのウリハッキョと無償化裁判」と題し講演を行った。
金さんは民族差別の怖さについて語り、これと闘うことは、「日本の植民地支配によって奪われた人としての基盤=民族的アイデンティティを回復していく作業」だと指摘した。
また、各地で行われている無償化裁判を闘う上での、同胞たちの役割についてこう話した。
「ここで重要になってくるのは、裁判をする主体は誰なのか、ということです。弁護団の方々を応援するのはもちろんですが、しかし、弁護士が裁判をするわけではありません。弁護士は、あくまでみなさんの代理人です。なぜ朝鮮学校が排除されてきたのかという差別の背景を弁護団に伝えられるのは、在日同胞自身しかいません。朝鮮学校の子どもたちや保護者が、裁判の主体です」。
また、朝鮮学校の無償化除外において、国の主張がいかにおかしいかをわかりやすく説明した。
講演を聞いた人たち、特に広島初中高の保護者たちは、「同校が同じ被害にあったら…と想像した。同じ保護者として、事件の加害者に対して腹が立って仕方がなかった」「これまではどこか第三者のように事件を見ていたが、当事者の話を直接聞くと、この事件の恐さが計り知れないものだと感じた」「自分たちが何をすべきか考えさせられた」などと、感想を話していた。(S)