柳美里さん、ご苦労様でした
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月刊イオの人気連載である芥川賞作家・柳美里さんの「ポドゥナムの里から」が2017年1月号で最終回を迎えた。連載が始まったのが2010年1月。7年に渡り連載していただいた。
柳さんが朝鮮民主主義人民共和国を訪問(2008年)されて、その訪問記をイオに書いていただいたのが2009年2月号。タイトルは「こころが祖国に根を生やしている」だった。それがきっかけで翌年の2010年から連載をお願いしたのだ。
病気で倒れていた時期をのぞいて、7年間、ずっと柳さんの連載を担当することができた。担当者は柳さんの原稿を誰よりも早く真っ先に読む。毎回、独特の感性や視点の鋭さなどに感心させられてきた。
柳さんの連載を担当するようになって、当然のことであるが、柳さんの著書をたくさん読んできた。連載スタート後に出版されてきた作品たち、「オンエア」「ピョンヤンの夏休み」「沈黙より軽い言葉を発するなかれ」「自殺の国」「人はなぜ「いじめ」るのか―その病理とケアを考える」「上野駅公園口」「貧乏の神様」「ねこのおうち」、そして最新作の「人生にはやらなくていいことがある」(写真)と読み(抜けてるものもあるかもしれない)、過去の作品である「命」や「家族シネマ」「8月の果て」なども手にとってきた。
一番印象に残っている作品は「8月の果て」だ。柳さん自身のルーツを描きながら日本軍「慰安婦」問題などを告発していて、朝日新聞に連載されていたころから話題となり読みたいと思っていた作品だった。うまく表現できないが、日本の植民地時代の朝鮮を舞台に、日本の支配の過酷さと人生を破壊されていく人々、それに抵抗しようとする姿など、圧倒的な構想と内容、筆致で、大作だが一気に読んでしまった。
最新作の「人生にはやらなくていいことがある」は、柳さんの生い立ちやご家族のこと、ものの考え方などが綴られていて、タイトルの通りに読み終えると肩の力が抜ける本だった。
今では柳美里さんは、もっとも多くの作品を読んだ作家のひとりだ。編集者という立場をこえてファンになっている。「日刊イオ」の読者の皆さんにも、柳さんの作品をぜひ手に取ってもらいたい。
最終回の「ポドゥナムの里から」で、柳さんは次のように書いている。
「単なる身辺雑記ではなく、一つのテーマを決めて(この連載のメインテーマは「国家」です)書いた連載エッセイとしては、柳美里史上最長となります。」
柳美里さんには、長い間、本当にご苦労様でしたと感謝したい。(k)