「保護なめんな」ジャンパーに思うこと
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あまりのひどさに言葉を失った。神奈川県小田原市で生活保護受給者の自立支援を担当する職員らが「保護なめんな」「不正を罰する」といった威圧的な文言がプリントされたジャンパーを自主制作し、それを着用して生活保護受給者の家庭訪問を行っていたというニュースだ。
報道によると、ジャンパーを着ていたのは受給者宅で相談に応じるケースワーカーや庁内勤務の職員で、30人近い職員の大半が着用していたという。ジャンパーの胸元には黄色のエンブレムがプリントされ、その中に「HOGO NAMENNA(保護なめんな)」と記されており、漢字の「悪」にバツ印がデザインされている。背面には英語で「我々は正義だ」「我々をだまして不正受給をしようとする人間はカスだ」といった趣旨の文字がデザインされている。
なぜこのようなジャンパーが作られたのか。市によると、2007年に生活保護の受給をめぐって職員2人が受給者の男性からカッターナイフで切りつけられる事件があり、それをきっかけに、「担当部署の職員らのモチベーションを上げるため」として当時の職員の発案によって作られたという。ジャンパーは希望する職員に販売され、これまでに64人が購入。職場で着用され始め、その後、一部の職員が受給者の家庭を回る際などにも着用されるようになっていったという。
市側は「品位を欠いた表現で不適切だった」として、ジャンパーの着用を禁止するとともに着用した職員の上司ら7人を厳重注意処分とした。
以上、ここ数日の報道に依拠しながら今回の出来事の概要をまとめてみた。にわかには信じがたいのだが、本当にあったことなのだ。
「不正や悪に負けないようにという意識向上のため、内部向けに作ったもの」「自尊心を高揚させて疲労感・閉塞感を打破するため」「ジャンパーがあるのは知っていたが、文言までは確認していなかった」などといった市側の釈明も噴飯ものだが、実際にこのジャンパーを着用して受給者の家を訪問していたとあっては公務員としての大事な何かが麻痺していたと言わざるを得ない。
また、市の公式ホームページには生活保護制度そのものに関する説明より「制度が利用できない場合」の説明が優先的に掲載されていたり、さらには誤った説明も混じっているなどホームページの記載は違法性が高い、日常的に「水際作戦」や生活保護利用者への人権侵害が行われていたことを疑わせる、など今回のジャンパー問題が一部職員の暴走ではなく市の生活保護行政全体の問題だと指摘する声もある。(上記のような指摘があった後、市は18日にサイト上の記載の一部を改善している)。
http://inabatsuyoshi.net/2017/01/18/2629
生活保護受給者の自立を支援するはずの職員たちが受給者を威圧するような服を着て業務を行い、そのような公務員にあるまじき行為が内部でスルーされていた―。生活保護利用者を支援の対象ではなく監視や管理の対象として見る視線があったからこそ、このような行為が放置されてきたのではないだろうか。
言うまでもないことだが、生活保護は恩恵ではなく権利だ。生活保護の不正受給は受給者全体でわずかな割合である一方、受給できている人は有資格者の2割程度で、残り8割は保護が受けられていない現実がある、行政は受給者を増やそうという働き掛けを積極的にすべきだ、といった批判も以前からなされてきた。不正を許さないという心構えはもっともだと思うが、それがこのようなジャンパーにつながる思考回路がまったく理解できない。
話は少々ずれるが、最近、身内の介護関係で行政のお世話になる機会があった。親身に対応してくれたのでよかったが、もし今回のケースのように地元行政の福祉関係分野に弱者に対する蔑視を隠そうとしない職員がいたら、と思うと背筋が寒くなる。(相)