コリア卓球統一チームの取材と荻村伊智朗さん
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今日は月刊イオ4月号の締め切りの日となります。4月号の特集では、朝鮮問題に深く関わって活動した日本の人たちを取り上げました。
私はスポーツ分野の人物と言うことで、卓球の荻村伊智朗さんを紹介する文章を書きました。荻村さんについて書かれた本を読み、荻村さんをよく知る人たちの話を聞いて文章をまとめました。荻村さんは、世界大会で数々のタイトルを獲得し、国際卓球連盟の会長を務めた人物。
そして、荻村さんと朝鮮とのかかわりと言えば、1991年の千葉での第41回世界卓球選手権大会(4/24~5/6)でのコリア卓球統一チームの実現とその活躍のことを触れないわけにはいきません。
不敗を誇っていた中国を破っての女子団体の優勝の瞬間は、今でも脳裏に焼きついています。優勝の瞬間の会場の興奮、表彰式で流れる「アリラン」、一番高いところにはためく統一旗。観客席では誰もが抱き合って涙していました。「統一とはこんなに素晴らしいものだ」ということを、実際に目の前で見せてくれたのがコリア卓球統一チームでした。(写真は表彰を受けるコリアの女子団体チーム。日本卓球協会発行の「写真で見る日本卓球史」より)
統一チーム実現のために大きな役割を果たしたのが、当時、国際卓球連盟の会長だった荻村さんだったのです。
コリア卓球統一チームの取材は、短くない記者生活の中でもトップクラスの思い出深い取材でした。まさに夢のような日々だった。大会がちょうどゴールデンウィーク期間で、連休がすべて取材のためになくなりましたが、まったく苦にならなかった。幕張の会場まで毎日通いました。
大会期間のある日、いつものように会場の幕張メッセの最寄り駅に降りて改札を出ました。すると、すぐ後に、荻村さんが同じように改札を出てくるのでした。すぐに荻村さんだとわかりました。
一瞬、躊躇しましたが、この機会を逃す手はないと、荻村さんに近づくとあいさつし、自分が何者かを名乗って、「コリアチームの活躍をどのように見ておられますか?」といった内容の質問を投げかけたのです。すると荻村さんは「よく頑張っていると思います」という内容の言葉を返してくれました。詳しい話はせずに、当たり障りのない内容の極めて短いコメントだったと記憶しています。
そして、「これ以上はもう質問しないでください」という雰囲気で、すたすたと歩いていかれました。強引に会場まで横について質問を投げかけていたらどうなっていたのか、いま振り返ると「記者としての根性がない」と後悔しないでもないですが、その時はできなかったというか、荻村さんの全身から出るオーラに負けてしまったのでした。
しかし、あの「世界の荻村」さんと少しでも直接、話せたことは良かったしうれしかった。コリア卓球統一チームの話題が出るたびに、取材の日々を懐かしむと共に、記者として少しほろ苦い思い出として荻村さんのことを思い出します。(k)