東京無償化裁判、判決は9月13日に
広告
62人の東京朝鮮高級学校生が提訴した東京無償化裁判が5月16日、ついに結審の日を迎えた。98席の傍聴席を求めて東京地裁に並んだ人は197人。11時から開廷した第14回口頭弁論は「弁論を終結します」という裁判長の発言に続き、判決の期日が発表され、あっと言う間の閉廷だった。判決は9月13日の14時に言い渡される。
2014年2月に提訴、同年4月2日から始まった口頭弁論はいくつかの山があった。まず10月1日の第3回口頭弁論では、原告の朝鮮高校生2人が意見を陳述。原告の顔が見えないよう遮へい措置が取られるなか、傍聴席にも2人の悔しさや裁判に挑む決意が切々と伝わってきたことを思い出す。傍聴席の最前列に座るご両親は、わが子の一言一句に耳をそばだて、その姿を見守っていた。
この裁判で国側が言ってきたのは、不指定になった責任は朝鮮学校側にあるということ。しかし、それが「事実ではない」ことを暴いたのが東京弁護団の功績だろう。
東京弁護団は、「文科省が、規定ハを削除したのは無償化法に照らして違法」という一点に絞り、闘ってきた。まずは、文科省の内部文書の開示を請求。開示された文書を通じて、文科省が拉致問題を口実にして朝鮮高校を排除したこと、朝高排除のために規定ハを削除したことを明らかにした(第9回口頭弁論、16年3月2日)。
※詳細は過去のブログ http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/3b274eaa8ffdea572b0477fe6b369070
さらに文科省役人の証人尋問が実現したことで、国の主張は大きく崩れた(第12回口頭弁論、16年12月13日)。
※詳細は過去のブログ http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/fc2ec27c81058528254e3ac3c58a0e3f
国側は朝鮮高校不指定の理由を「規定13条に適合するに至らなかった」としていたが、その主張は後付けで、朝鮮学校を外すために規定ハを外したことが判明したのだ。
「規定ハの削除による朝高排除は、政治的外交的配慮にもとづいてなされたもので、高校無償化法の下では違法。私たちが求めているのは、国会が制定した法律の正当な解釈であり、これを行うのは裁判所だ。裁判所が通常の解釈をしていただきたい」―。前回の第13回口頭弁論で喜田村洋一弁護団長が述べた通り、文科省が法律の趣旨をねじまげ、朝高生の学ぶ権利を奪った事実を日本の裁判所が直視し審判を下せば原告勝訴は間違いない。
参議院議員会館で行われた報告集会では、4人の弁護士が登壇し、3年3ヵ月にわたる裁判を振り返った。
弁護士として初めて担当した事件が京都朝鮮学校襲撃裁判だったという康仙華弁護士は、「在特会が行ったことは、朝鮮民主主義人民共和国や総聯を支持する朝鮮学校に対しては何をしてもいいということだった。無償化から朝鮮高校を排除した国の真の理由もそこにあると思っている。このことが許せないという思いで裁判を闘ってきた」と話した。
報告集会をいつも仕切ってきた李春熙弁護士は、「段階を踏むたびに、国の証言は辻褄が合わなくなっていった。勝利への確信は強くなっている」と手ごたえを語った。
2003年提訴の枝川裁判の弁護団に名を連ねた金舜植、師岡康子の両弁護士は、原告に名乗り出た朝高生や保護者たちに思いを馳せながら、提訴からの日々を振り返っていた。
金弁護士は、「大阪、愛知で無償化裁判が始まるなか、生徒たちとディスカッションしたことが思い出される。子どもたちは、自分の力ではいくら頑張ってもどうにもならない政治的な理由で無償化から排除された。それでも、生徒たちは、自分たちが手を挙げることで、歴史を変えられるという決意をもって原告になってくれた」とその勇気を称えた。「試されているのは、法律を誠実に執行する義務を怠った行政の在り方。裁判を通じて、審判の対象は国の行いだと示すことができた」。
師岡康子弁護士は、「朝鮮バッシングを続けるために朝鮮学校を叩くという流れの中に、無償化排除、補助金外しがあり、この流れを止めるためには、どうしてもこの裁判に勝たなくてはならない。保護者の皆さんには心配をかけたが、とにかくこの裁判で勝つことが弁護団の責任だと思っている」と決意を伝えた。
残るは判決。恐怖と不安を抱えながら裁判を闘ってきた原告、家族たちの姿も印象的だった。
「裁判を始めた当初は、なぜ子どもが矢面に立たなくてはならないという思いばかりでした。けれども、裁判を重ねるなかで、この裁判は絶対負けられないと思えるようになった。このように思えたのも、子どもたちが原告になってくれたからこそ。自分たちが歴史を変えると勇気を出し、第一歩を踏み出してくれた。仮に自分がその立場に置かれたなら、それができたのかな?と思うことがある。できないだろう、やらないだろうと…。原告の子どもたちに感謝したい」。第3回口頭弁論で意見陳述に立った生徒の母親はこう話してくれた。
この日の報告集会を盛りあげたのは、パフォーマンスを披露してくれた東京朝高美術部の生徒たち。白いビニール傘で顔を隠しながら、思い思いに無償化から自分たちをはじいたこの社会の「理不尽」を語っていく。
ここに朝鮮と日本を隔てる概念的な壁がある…
壁のなか、相手の姿も見えない状態…
壁をうちやぶって真の和解と理解を獲得しよう…
最後は「ガッツだぜ!」と力強く呼びかけ、会場を沸かせた。
長谷川和男・共同代表は、9月13日の判決の日を、「歓喜の大集会」にしようと呼びかけ、200人を超える人たちで法廷を埋め、抗議の意思を示そうと呼びかけた。また、7月19日に判決を迎える広島無償化裁判、28日判決の大阪無償化裁判にも連帯していきたい、各地の朝鮮学校にも足を運び、支援を続けたいと語った。
「多くの仲間を獲得していく、一人ひとりの意識を変えていく運動を」-。判決の日まで世論を盛りあげていく決意は力強かった。(瑛)