3・29通知の影響は深刻、補助金カットに歯止めを/無償化連絡会が文科省に6項目の質問
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●深刻な現場への影響
馳浩・文部科学大臣が朝鮮学校への補助金支給の自粛を求めた「3・29通知」(2016年)によって、各地の自治体で補助金カットが続くなか、「『高校無償化』からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」がその真意を問う文科省に質問(6項目、下記に全文掲載)を提出。6月15日、その回答が文科省職員から連絡会メンバーに伝えられた。
3・29通知とは、朝鮮学校を訪れたこともある馳浩大臣名で出されたもので、題目は「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」(下記に全文)
この通知は、「朝鮮学校への公益性を検討し、補助金を透明性のある執行を確保」せよと自粛を説く一方で、「朝鮮学校に通う子供に与える影響にも十分に配慮」することを求めている。各種学校への監督権限のない文科省が通達を出すのは異例のことだ。
この日は連絡会共同代表の長谷川和男さんをはじめ、3・29通知後に実際に補助金を切られた茨城や千葉の朝鮮学校校長、補助金停止で経済的に困窮する関東地方の保護者たち約60人が参加。文科省大臣官房国際課の2人の職員と参議院議員会館で面談し、その真意を聞いた。
茨城県水戸市から永田町の参議院議員会館を訪れた尹太吉校長の表情は険しかった。
「茨城では35年間、補助金がずっと支給されつづけてきたが、16年に停止、17年度は予算にも計上されていない。文科省は通知は圧力ではないと再三言うが、茨城県の職員は『通知もありまして』と答えた。県内の他の2つの市も県の意向に沿って中止と伝えてきた。自治体が権限を持つ補助金に文科省が足を踏み込み、このような通知を出した影響が出ている。補助金停止の実態がわかれば、すぐに指導するべきことではないのか。文科省は、この責任をどう取ろうと思っているのか」
長谷川代表も、「地方自治体は、明らかに通知を圧力と受け取っている。不当な介入だ」と断罪した。
この問いに対して文科省職員は、「何ら圧力やプレッシャーを与える思いはない。いろいろな外交関係や政治状況の中で、どう判断すればいいのかという混乱に近い声が、各自治体から関係部門に届いていた。この混乱に対して一定の留意を確認する必要があった。出した側として、もう一度、説明責任を果たすべきだと思っている」と答えた。
●国連勧告は無視
昨年5月に郡和子衆議院議員が出した質問に対して、文科省はこのように答えていた。「本通知が補助金の停止・減額を求めるものではない旨は、自治体等からの問い合わせがあった場合には必ず答えるようにしている」――。
そもそも、地方自治体が支給する補助金は、地方自治法に則って自治体独自の判断で支給されるもので、文科省が指導する性格のものではない。席上、文科省職員も、「交付については、各自治体の判断。われわれがこうしなさい、ああしなさい、といえる立場にはない」と言い放った。
ならば、なぜ出す必要があったのか、と田中宏・一橋大学名誉教授はその意図を問うた。
「国連・人種差別撤廃委員会は2014年8月、朝鮮学校への補助金を止めている自治体は復活し、出している所は維持するよう、日本政府が促すことを勧告している。この委員会には政府からも参加もしているではないか。3・29通知に国連の勧告を入れなかったのは、なぜか? また、条約関連を担当している外務省とは相談せず、総務省とだけ相談して通知を出すことは大いに問題だ」
「外国人学校と民族団体が関係を持つことは、普遍的なこと。なぜ朝鮮学校と総連の関係だけを問題にするのか」(在日本朝鮮人人権協会・金東鶴さん)
「文科省がいう公益性とは何を意味するのでしょうか。学校に見返りがないと、補助金を出さないのですか」(申嘉美さん)
疑問と怒りがぶつけられた。
●国際交流も忖度?
日本軍性奴隷制問題を題材にした絵が展示されていることを理由に、国際交流を目的とした千葉朝鮮初中級学校への補助金を打ち切った千葉市。千葉の代表も発言し、国際交流の意味を問うた。
その一人が榮永正之・千葉ハッキョの会事務局長。
「私は高校の教員を40年近くしているが、朝鮮学校が在日の人たちになぜ必要なのか。文科省の方々は、それをまったく理解されていない。朝鮮語を話せなかった子どもが6年をかけて話せるようになる。日本政府は、国連・社会権委員会第3回審査(2013年)前の事前質問に対する回答で、『外国人児童生徒の母語、母文化に関する教育については、総合的な学習の時間等で取り上げることは可能、課外活動として実施することも可能』と答えている。課外活動で、取り上げることは可能だろうが、果たして、今の朝鮮学校が行っているような教育ができるのだろうか―。
私は、在日の人たちの朝鮮学校への思いの強さを毎日のように感じている。それを思うと、たかだか週1時間の総合的な学習の時間や課外活動で取り上げるという言葉は理解できない」
「千葉朝鮮学校の地域交流事業には、夏の美術展と春の芸術発表会という2つの行事があり、近隣の公立小中学校が参加していた。私は数年この交流事業に参加しているが、本当に有意義な交流だと感じている。
千葉市長が問題にしたのは、従軍慰安婦をテーマにした絵だった。絵の下に書かれた『日韓合意』のコメントが、『日韓合意』を否定する内容だと、地域交流に資する内容ではないと判断され、補助金停止を決めた。文科省通知の後のことだ。
たとえ意見が違ってもそれを尊重することを目標にしていくのが交流だ。しかし、今回の決定は、どんな意見があっても地域交流に資することはないんだということでしょう。だから、ずっと出していた補助金を突然に止めた。今後、この交流はなくなるかも知れない。地域の小学校、中学校から作品を持ってこないかも知れない。
文科省は通知に対する責任、自治体に対する指導をどう考えているのか。
朝鮮学校の子どもの学ぶ権利を保障するために文科省は何をするんですか」
金有燮校長も長年続いてきた交流への思いを伝えた。
「異文化交流とは、強いものだけが自分の主張をし、弱いものは強いものにあわせた主張しかできない。そのようなものなのでしょうか。
交流とは、違いを知ること。まずは知ってこそです。意見は違って当たり前、しかし互いを尊重することはできる。それをやってはいけないということが、果たして交流につながるのでしょうか。千葉市がやったことは、植民地時に日本の学校に通わざるをえなかった1世の朝鮮人が朝鮮語を話して殴られ、朝鮮人としての歴史観を主張したら殴られたことと同じではないか。植民地主義がまだ生きているのです。
何より、表現の自由を奪っている。子どもが何を表現してもいいじゃないですか。それを認めてほしい。それこそが、教育ではないですか。教育に携わる者として意見を聞きたい」
質疑応答は1時間半にかけて行われ、最後、朝鮮学校保護者のオモニたちが、職員に駆け寄り、「一度、朝鮮学校を自分の目で見てほしい」と問いかける場面もあった。
現場の怒りに触れて改めて思う。「3・29通知」が出されたのはつくづく間違いだったし、無償化からの朝鮮学校排除がこの通知にお墨付きを与えている。
席上、文科省職員は、「(朝鮮学校を各種学校として認めるべきでないとした)1965年の事務次官通達は、2000年4月1日の地方分権一括法の施行に伴い、その通知が廃止されたことに伴い、その認識もあわせてわが省としては持っていない」と話したが、ならば、通知を撤回するのが筋ではないだろうか。(瑛)
※資料①
朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点についてhttp://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1369252.htm
27文科際第171号
平成28年3月29日
北海道外1都2府24県知事 殿
文部科学大臣
馳浩
朝鮮学校に係る補助金交付については、国においては実施しておりませんが、各地方公共団体においては、法令に基づき、各地方公共団体の判断と責任において、実施されているところです。
朝鮮学校に関しては、我が国政府としては、北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしているものと認識しております。
ついては、各地方公共団体におかれては、朝鮮学校の運営に係る上記のような特性も考慮の上、朝鮮学校に通う子供に与える影響にも十分に配慮しつつ、朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討とともに、補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保及び補助金の趣旨・目的に関する住民への情報提供の適切な実施をお願いします。
また、本通知に関しては、域内の市区町村関係部局に対しても、御周知されるよう併せてお願いします。
なお、本通知の内容については、総務省とも協議済みであることを申し添えます。
※資料②
外国人の子どもの学ぶ権利および朝鮮学校への補助金支給等に関する質問事項(6項目)に対する文科省の回答(2017年6月15日、参議院議員会館)
◇質問1.
日本政府は、国連・自由権規約委員会による第6回対日審査(2014年)を前にして出された同委からの事前質問に対する回答において、マイノリティの児童の教育の確保について(パラグラフ224)、「我が国においては、憲法26条において、『法律の定めるところにより、すべての国民は教育を受ける権利を有し、その子女に普通教育を受けさせる義務を負う』ことが規定される。…マイノリティの意味が必ずしも明らかではないが、日本では、日本国籍を有しているものであれば、差別なく十分な教育の機会が確保できるようにしている」としている。
一方、国連・社会権規約委員会第3回対日審査(2013年)を前にして出された同委からの事前質問に対する回答においては「外国人がその保護する子を公立の義務教育諸学校に就学させることを希望する場合には、国際人権規約や児童の権利条約等も踏まえ、無償で受け入れており、教科書の無償給与や就学援助を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障している(問28への回答)」と回答している。
これに関して以下の3点について回答されたい。
1-①憲法第26条第1項及び第2項の条文にある「国民」には、外国籍者は含まれるか、否か。
文科省:法務省にも確認したが、外国籍者は含まれない。
1-②①においての回答が「否」の場合、日本政府は、日本が加入している国際人権諸条約との関係上等から、憲法第26条の教育を受ける権利を日本国民と同様に、外国籍者にも保障する責務を負っていると考えているのか、否か。
1-③上記の社会権規約委員会への回答では、「外国人の児童生徒の母語、母文化に関する教育については、地域の実情や当該児童生徒の実態等に応じ、公立学校において、学習指導要領に基づき、総合的な学習の時間等で取り上げることは可能である。また、課外活動として実施することも可能であり、複数の地方公共団体において実践されているところである」としているが、外国籍者が自らの母語や母国語、また母国の文化や歴史を学ぶことにつき、文科省はそれを保障すべき立場にあると考えているか、否か。
文科省:(②③への回答)条約たとえばA規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)等で批准しているので、そちらが我々の対応となる。
文科省としては、一般論になるが、国籍等のいかんに関わらず、外国人がその保護する子どもを公立の義務教育学校に就学させることを希望する場合には、無償で受け入れており、教科書の無償提供や就学援助を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障している。なお、各学校において行われる民族教育等を含めて、具体的な指導の内容については、児童生徒の発達の段階や、当事者の教育的ニーズに応じて、各学校の判断と責任のもと、創意工夫により行われているものと承知している。
◇質問2.
昨年5月に郡和子衆議院議員事務所を通して私たちが行った質問に対し、文科省が5月30日付で回答をしているが、そこには、「朝鮮人としての民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校は、わが国の社会にとって、各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められないので、これを各種学校として認可すべきでないこと」と都道府県知事らに指示した1965年の事務次官通達「朝鮮人のみを収容する教育施設の取扱いについて」(文管振210号)は、「平成12年に施行された地方分権一括法により、…私立学校等の設置認可が自治事務として整理されたため、当該通知は現在失効していると考えている」とし、さらには「通知中にあるような認識は、現在有しておらず」とある。
「地方分権一括法施行により失効」という点は、既に1998年の国連・自由権規約委員会の対日審査において委員から同通達が批判されたことを受けて出された福島瑞穂参議院議員の質問主意書に対する日本政府の答弁書(2000年8月25日)により表明されているところであるが、「通知中にあるような認識は、現在有しておらず」という内容はその答弁書には書かれてはいなかった。「朝鮮人としての民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校」の「意義」を全否定したかのような認識はいつ、何を契機に、どのようにして、どういった認識に改められたのか回答されたい。
文科省:1965年の事務次官通達は2000年4月1日の地方分権一括法の施行に伴い、その通知が廃止されたことに伴い、その認識も合わせて我が省としては持っていないということになる。
連絡会:各種学校としてすらの積極的意義も持っていないという認識を変えたのかを聞きたい。
文科省:かなり昔の通達なので調べてみたのが、認識を整理したものはなかった。今言えることは、2000年4月の時点ではその認識はなくなっている、これに尽きる。
◇質問3.
上記の昨年5月30日付回答では、国連・人種差別撤廃委員会の2014年の「最終見解」等で求められているユネスコの「教育における差別待遇の防止に関する条約」への加入問題に関して「条約への加入に関しては、外務省において担当されているものと考える」としているが、教育に関する事項である以上、少なくとも外務省はこれについて判断するに当たっては文科省に打診をするものと考えられる。これまでそのような打診は一切なかったのか、もしあったのならその内容と、それに対し文科省としてどのような意見を出したのか、またこれまで打診が無かった場合でも文科省としてどのように考えているのか、あるいはまったく考えていないのか、回答されたい。
文科省:外務省の人道人権課とやりとりをしたのだが、未だ批准していない条約であり、政府内で検討過程にあるので答えは差し控えるよう言われている。
この条約は1960年代にできたもののようなので、かなり過去にはなるが、国際部局、具体的にいうと統括官付ということになるが、論点整理や批准のための状況等について内部検討はしていると思う。
◇質問4.
上記昨年5月30日付回答では、昨年の3月29日の文科大臣通知(「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」)に関連して、その運営において朝鮮民主主義人民共和国と「密接な関係」にある朝鮮総聯と関係が深いという朝鮮学校の特性は、「朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等を検討するにあたり考慮すべき要素」と回答しているが、外国人学校と民族団体や本国とする国家との関係性は密接であることは普遍的とも言えることであり、何より教育施設の「公益性」を判断するにおいては、「子どもの学ぶ権利」を基軸に据えるべきであり、それは政治的外交的理由に左右されてはならないものと考える。これに対する文科省の考えを示されたい。
◇質問5.
上記昨年5月30日付回答では、同通知に関連して、「自治体から問い合わせがあった場合には、本通知が補助金停止を求めるものではない旨を必ず答えるようにしている」としているが、実際に自治体からの問い合わせが何件あったのか。またその問い合わせには具体的にどう答えてきたのか、回答されたい。
文科省:(4,5への回答)
この通知というものは、朝鮮学校に係る補助金交付に際して、補助金の公益性や教育振興上の効果に関する十分な検討を行うことについて留意を促しているものであり、交付に関する判断については各自治体の判断であり、われわれがこうしなさい、ああしなさいと言える立場にはないし、言うべきものでもないので決してそういう趣旨ではない。
その上で教育施設の公益性についての判断についてどう考えているかということだが、教育というものは受けた本人のみならず、広く社会全体に還元されるべきもので公的な性格を持つものだ。
このような教育の成果が発現されるようになるためには、やはり各種の行政行為等が、定められた法令に基づき適切に運営されることが重要だと考えている。今回の通知に関しても我々が申し上げたかったのことは、それぞれ補助金交付に関する規定があるので、そちらの趣旨を十分に鑑みてくださいということであり、それが公益性というものに関する考え方についてのお答えになるかと思う。
茨城朝鮮初中高級学校校長:茨城県では3.29通知を受けて、補助金が止められる事態になっている。通知のもたらす実際の影響が出ている。各地の状況を調べているのか。
文科省:具体的な問い合わせの数は、日々の日常業務なので把握していないが、お尋ねが来ることがある。
各自治体がどのように判断していいか分からないといった混乱に近い声というものも非公式的ではあるが、われわれ関係部局の耳に届く状況があり、そう言った混乱に対して一定の留意、確認というものをして頂くために、この通知を出したというのが事実。そのうえで、そのような事例(茨城)があるというのはたいへん重く受け止めている。われわれには出したものとしての説明責任があるので、今後機会を捉えて、しっかりやっていかなければならないと考えている。
茨城校長:文科省は、茨城県のような動きが出てきていることへの責任を取るべき立場にあるのではないか?
文科省:行政的な話をさせていただければ、執行停止をしたのは各自治体の判断。我々はあくまで適正な判断をお願いしたのであって、個別の事例に対して、茨城県なら茨城県として適切な判断をしたからそうなったのか、あるいは我々の通知等が影響を与えたかのについては、判断できない。
連絡会:35年間出し続けられていた補助金が3.29通知直後から停止となっていった。全国にそういった動きがある。多くの自治体が文科省からの圧力と受け取っている。自民党の拉致議連が朝鮮制裁の一環として補助金停止を主張したことが通知が出た理由であることは明らかだ。
国連・人種差別撤廃条約委員会から補助金停止に反対する勧告が出ているにもかかわらず、そのことを同通知に反映せず、また条約関連を担当している外務省とは相談せず、総務省とだけ相談して同通知を出すことは大いに問題だ。
また、民族団体や本国とする国家との関係性が密接であることは外国人学校にとっては普遍的なことで、なぜそれが問題となるのか。「公益性」を判断するにおいては子どもの学ぶ権利を基軸に据えるべきであり、それは政治的外交的理由に左右されてはならないのではないのか。
文科省:文科省として申し上げられることは先ほど述べた通りだ。
◇質問6.
千葉市では、千葉朝鮮初中級学校の地域交流事業に支出する補助金について、その交付決定を取り消した。同市はその理由を、補助金交付の要件に「地域交流に資すること」とあり、「日韓合意を否定する内容」の学生の美術作品の展示はその要件に反するからとしている。これは表現の自由や学問の自由といった価値をも脅かすものと考える。このようなことが、文部科学省が自治体に求める「補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行」と評価できるのか、回答されたい。
文科省:文科省としては、あくまで千葉市の判断と責任において行ったものであって、政府として見解を述べるものではないと考える。
※上記問答は「『高校無償化』からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」からの資料提供をもとに、イオ編集部が編集したものです。