百聞不如一見2
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最近身の回りで朝鮮を訪れる人が多く、2002年を最後に足が遠のいている自分自身がこの目で見た朝鮮を振り返っていた。
そんなときに元編集者の平田賢一さんから送られてきたのが、この一冊。「百聞不如一見2 ひゃくぶんはいっけんにしかず/2014~2016訪朝報告書」だ。
この冊子は大学生、元研究者・編集者・高校教員たちによる訪朝記。8人が10日足らずの間に見聞きした朝鮮の風景、空気、人々とのふれあいを綴っている。所々に入った写真もいい。道端でふざける女生徒や、孫とひと時を過ごすおじいさん。現地の人と時間をともにした筆者たちの写真にも心が和む。
執筆者の一人である大学生のBさんが朝鮮に興味を持った大きなきっかけは、故・忌野清志郎がバンド「タイマーズ」時代に歌っていた「あこがれの北朝鮮」を聴いたことだったという。かれが訪朝した一番驚いたことは、都心でも郊外でも「普通の生活が営まれている」事実だった。一方で、日本で暮らす自分には普通に感じられない場面があり、学校現場や街で見たスローガンについて率直な思いを綴っていた。
胸が熱くなったのは、山下英愛さんが朝鮮の脚本家たちとの交流を紹介していたページ。韓国ドラマをテーマにした著書もある山下さんは、朝鮮のテレビドラマ情報を集めることを目的に訪朝し、2人の脚本家に会うことができたという。
「ソッケウルの新春」などのヒット作で知られる脚本家のユングァンヒョンさんの話が印象的だった。
山下さんの文では、ユンさんがドラマ「温かいわが家」(2004)の脚本を書いたきっかけが、以下のように紹介されていた。
…苦難の行軍時代、中国から帰ってくるとき、中国側の丹東には電気が赤々と点いていたのに、祖国は暗かった。万寿台に立ち寄って平壌産院の隣にある自宅に帰った。その時に、平壌産院だけが唯一煌々と輝いていた。それを見た瞬間、「これが祖国だ」と思い、胸が熱くなった。その時、必ずこのことをドラマにしようと思った…
ドラマの詳細は書かれていないが、産婦人科医を目指す男性が主人公だという。しかし、私はなぜこのくだりに目頭が熱くなったのだろう…。日本の市民がNHKの朝ドラを楽しむように、このドラマも全作見てみたいし、初老の脚本家にいつか会ってみたい。
平田さんはI書店で活躍した骨太の編集者で、退職した後もほぼ毎年、朝鮮を訪れている。日本のおからのような「ピジ」が美味だったとの平田さんの食レポも楽しかった。
76ページの冊子を通じて、大阪を日帰りできるように平壌日帰り旅行ができる日を思い描くことができた。平田さん、ありがとうございました。(瑛)