難民たちの言葉②
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前回のブログ(「難民たちの言葉①」→https://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/00f07f4d007ca6064da22d7e76fdea6c)では、東京入管に収容されている難民たちと面会して聞いたことについて書きました。8人と面会したうち、5人分までしか書ききれなかったので、今日はまずあとの3人について書きます。
【六人目:Kさん】
Kさんはクルド人の男性。面会に行った前日が、収容からちょうど4ヵ月目でした。妻が尿管結石を患っており、3月13日に手術があるため心配でたまらないと話していました。Kさんも多くの収容者と同じように、収容される理由がないにも関わらずここに入れられています。
「食べても吐いちゃう。10キロ以上やせた。夜中に目が覚めたり、全部ストレスで起こったこと。国に帰るって決めればすぐに出られるけど、自分はいつまでここにいたらいいかも分からない。一番下の子どもはまだ赤ちゃんです」
Kさんはずっと伏し目がちで、なんの気力も出ないようでした。「子どもの1歳の誕生日も、パパが中にいたんですよね」と織田さんが声をかけました。小さな子どもがいる際は「ガラス無し面会」(ガラスに遮られず、同じ部屋で被収容者と面会者がふれあえるもの)というものを申請できるのですが、Kさんがそれを求めた時は許可が下りなかったそうです。はっきりとした理由も伝えられず。判断した人にはせめて、万人が聞いて納得できる基準を述べてもらいたいものです。
【七人目:Nさん】
日本人の女性と付き合っているという、クルド人男性のNさん。24歳です。
「頭痛がひどい。ストレスで。ずっと歯が痛い。昨日、職員が来て(国に)『帰る? 帰らない?』と聞かれた。国に帰ったら捕まる。家族も恋人もみんなここにいるのに、一人で帰ってもなにもない。この前、同じ部屋のスリランカ人が自分の首を絞めて死のうとした。お腹に石があってすごく痛いのに、ずっと病院に連れていってもらえないから。目の前で首を絞めたから本当にびっくりした」
前回、織田さんがNさんと面会した時は、かれも「死にたい、死にたい」としきりに言っていたそうです。
「なんでか分からないけど、足の指の皮が剥けて血が出ている。こんなこと今までなかった。頭が痛いと言ったら変な薬も飲まされて、本当に最悪」。収容所内には常駐の医者がいるそうですが、どんな症状を訴えても気休めの薬(痛み止め、精神安定剤、睡眠薬)しか出してくれないのだそうです。副作用が強く、逆に身体に異常をきたす原因にもなります。この医者は、自分のやっていることが目の前の人間の命を削っているということに1ミリの罪悪感も感じないでしょうか。
「悪いことしてない。どっか行く時もちゃんと品川に来る(※住所がある県外への無許可での移動は許されていないため、入管へ来る必要がある)。なんで捕まえる? 本当にそういうこと嫌だ」
Nさんが見せてくれた、血の滲んだ足がしばらく頭から離れませんでした。
【八人目:Pさん】
最後はPさん。クルド人男性です。面会室に入り椅子に座ると、向こうから「元気ですか?」と声をかけてくれました。Pさんはもともと持っていたビザを失効してしまい、難民認定の申請中だったにも関わらず昨年11月に収容されました。仮放免のための申請をしばらく前にしたものの、いまだなんの返事も来ていません。どんな言葉をかけたらいいか分からずこちらが沈黙していると、軽く頷きながら「大丈夫ですよ」と言いました。
妻もクルド人。子どもは3人います。しかし、妻にも難民認定が下りていないため、働くことができません。不法就労になるからです。「えっ? じゃあどうやって生活…」と驚いて尋ねようとすると、「仕事できない。生活できない。子どもどうやって育てるの?」と、突然Pさんの口調が鋭くなりました。
「日本のやり方、間違ってる。難民は助けるもの。みんな人間だよ。悪いことしてない、真面目な人が捕まる。外国人、人間じゃないと思ってる。人間じゃないのは入管。でもしょうがない、日本だから」
『しょうがない、日本だから』―。その言葉に鳥肌が立ちました。暗く深い言葉のように感じられました。外国人の肌感覚なのだと思います。入管がしていることは、そこまで言わせてしまうのです。「大丈夫、頑張る」。Pさんは再びそう呟きました。
外にいる家族のことがまだ気がかりだったので、どのように生活しているのか改めて聞いてみると「友達にお金を借りて生活してる」との答えが返ってきました。
お金を貸してくれるのは支援者でしょうか? クルド人の友人でしょうか? しかし毎月どれくらいのお金を借りれば3人の子どもとの生活をまかなえるのでしょうか? 私が質問を続けようとすると、比較的やわらかい表情だったPさんの顔が険しくなり、こちらを真っ直ぐ見据えて言いました。
「いつまでそれ続けるの? 自分を捕まえても払ってくれるならいいよ、でも入管はそれ考えてくれない。あなた自分が外の国に行って子ども熱出た、救急車の番号分からない、言葉分からない、子ども熱いちばん危ない、どうするの? なにもできない。どうするの?」…
目をそらさずに見返すことが精いっぱいで、なにも答えられませんでした。「しょせんそちら側にいる人」と思われているのでは。無力感と申し訳なさでいっぱいになりました。するとPさんはふっと下を向いて、「大丈夫」とこぼしました。
Pさんは、本当は誰かに問い続けたいのかもしれません。でもどうにもならないことを知っているから、もどかしい思いを落ち着かせるためにこうしていつも、自分自身に「大丈夫」と言い聞かせているのではないかと感じました。
最後に少し子どもの話をしてくれました。「この前、面会に来た子どもに『パパの家、遠いですねー。疲れる』と言われた。ここ『私の家』(笑)。同じ日本にいるのに子どもが遠い。会いたい」
面会が終わったあと、織田さんについて6階に向かいました。ここは処遇部門といって、被収容者の処遇を決める部署です。仮放免を認めるかどうかの判断もここが行っています。織田さんは、メルバンさんの仮放免申請が却下されたことに抗議するため、過去にも何度か話したことのあるYさんという職員を呼びました。
織田さん「ひどいじゃないですか。出して下さいって言いましたよね? どうしてダメだったんですか?」
Yさん「理由についてはお答えできません」
織田さん「病気の人なんだけど。このままだったらメルバン壊れちゃうよ、出してください」
Yさん「一般論としては、収容を継続しても問題ないということでそう判断しました」
織田さん「継続しても問題ないんじゃないんだよ。手遅れじゃダメなんだよ」
Yさん「いえ、なので一般論として収容を継続することが可能ということで今回そういうことになりました」
織田さん「自分が病気の経験もないのにどうして『大丈夫』って判断できるんですか?
Yさん「…」
織田さん「病名も出てるんですけど、そんな人を収容して手遅れになったらどうするんですか?」
Yさん「客観的な情報を踏まえた上での判断ですので」
一般論ってなんでしょう。言葉がすべて薄っぺらくて機械のようです。Pさんが「人間じゃないのは入管」だと言っていましたが、まさにその通りの対応でした。しかも、聞くと処遇部門の職員たちは、直接的に被収容者と接するわけではないのです。
それに、「収容を継続しても問題ない」という言葉。「難民たちの言葉①」で紹介したアフリカ人女性のJさんは1年半以上前から胸の痛みを訴えていましたが、一向に外の病院へ連れていってもらえず仮放免も認められませんでした。これも同様に「収容を継続しても問題ない」と判断していたのでしょう。
しかし、2月にようやく外の病院で診断を受けると乳がんが判明。その直後、すぐにJさんの仮放免が決まりました。慌てて収容所から出すほどの状態になるまで放置されていたのです。「収容を継続しても問題ない」というのは、被収容者にとってではなく入管にとっての言葉なのだなと、はらわたが煮えくり返りました。中で死なれたら困るから、はい行っていいよ。Jさんは捨てられたのだと思いました。入管の職員たちは、こうやって人の命を捨てているのですね。
***
例にもれず、今回も長くなってしまいました。3月2日には有楽町にある日本外国特派員協会でメルバンさんの母とSYI(収容者友人有志一同)が、東京入管の不当収容による家族分離の問題を訴える記者会見を開きました。トップの写真は、家族を収容されている他のクルド人女性たちです。かのじょたちも伝えたいことがたくさんありましたが、壇上に立てる人数が制限されており、自分たちの話は届くのだろうかと悲しくなって泣いてしまったのだと思われます。
また、昨日の夜には渋谷で、メルバンさんの記事に接して問題意識を持った人たちがスタンディングデモを行いました。はじまりはツイッター。#FREEMEHRIBANのハッシュタグで40人ほどが集まり、入管の問題を道行く人々に喚起しました。
アクションの中心になった人たちは同時にネット署名(http://chn.ge/2oQZTKr)を始めており、本日9時半の時点ですでに約1000人が賛同しています。
これらのことは、せっかくなので、できればまた今週土曜日の日刊イオで書きたいと思います。月刊イオでも、5月号から入管の問題に関する短期連載を始める予定です。
そして最後にお知らせです。SYIが、3月12日(月)13時から東京入管で抗議・激励・面会アクションを実施します。名前の通り、入管に抗議の声を上げ、実際に被収容者たちと面会をして元気づけるアクションです。誰でも参加できます。
怒りを伝えたい、自分もなにか行動したい、入管の問題についてもっと知りたい…という方は、参加してみてはいかがでしょうか。面会には身分証明書が必須です。(理)
●第33回 東京入国管理局での抗議・激励・面会アクション→https://pinkydra.exblog.jp/27120039/
メルバンさんを早急に解放するようFAXや電話で入管に訴える運動も引き続き行われています。
東京入管:FAX(03-5796-7125)、電話(03-5796-7111)