平壌で迎えた「チョンウォルテボルム」
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朝鮮には旧正月や한가위(ハンガウィ、秋夕【陰暦の8月15日】)など伝統的な民俗名節がいくつかあるが、정월대보름(チョンウォルテボルム、小正月【陰暦の1月15日】)もそのうちのひとつ。
この日は、一年の健康を願って、米、粟、黍、麦、小豆などの五穀をまぜて炊いたご飯に9種の干したナムルを食べるのがならわしになっている。五穀やナムルの種類は厳密に決まっているわけではなく、時代や地域によってもまちまちだ。今年のチョンウォルテボルムは3月2日。この日訪れた市内の食堂で出された9種のナムルはトラジ、カボチャ、ナス、大根の切干、ゼンマイ、サツマイモの茎、オタカラコウ、トウガラシの葉、大根の干し菜。
정월대보름の朝にお酒を一杯飲む風習もある。「귀밝이술」(耳がよく聞こえるように、と飲むお酒)と呼ばれ、飲めばその一年はいい知らせだけを聞くことができると言い伝えられてきた。また、정월대보름の前日には、長い麺のような長寿を願って국수(麺)を食べる風習もある。
そして、정월대보름の風習といえば月見だ。旧暦でこの日は1年で最初の15夜。昔からその年で最も大きくて丸く明るい満月が浮かぶ日とされてきた。年初めの満月を最初に見上げた人にはその年の幸運が訪れると言われており、昔の人々は月を見上げながらその年の農耕の豊作、凶作を占ったという。
夕方からは平壌市内のさまざまな場所が月見客でにぎわう。人気のスポットは牡丹峰や大同江畔など。昨年、一昨年とチョンウォルテボルムの日は天気が悪く、月が出なかったというが、今年は見事な満月が平壌の空に浮かんだ。
このように、民俗名節ひとつとっても、さまざまな風習や伝統がある。年長者からそれにまつわる話を聞いても面白いし、世代間のギャップで会話が盛り上がることもある。単なる願掛け、科学的根拠のない古い風習と一蹴するのは簡単だが、それではあまりにも無粋というものだろう。
寒さの厳しい冬場ということもあって、旧正月やチョンウォルテボルムの時期に訪朝する人は多くないが、先人の知恵と歴史が刻まれた風習に現地の人々とともにどっぷりつかってみるのもいい。(相)