「絶対にやめない」ー大阪補助金裁判控訴審判決を受けて
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大阪府と大阪市が、府・市内の朝鮮学校に対する補助金を不支給とした処分の取り消しと交付の義務付けを求めた裁判(大阪補助金裁判。原告=大阪朝鮮学園)の控訴審判決が3月20日、大阪高等裁判所で言い渡された。
高裁は、本件控訴をいずれも棄却するとして、再び原告の訴えを退けた。府と市による補助金の不交付決定は「裁量の範囲内」であって処分に違法性はないとした一審判決の内容を踏襲するものだった。
裁判所の外で判決を待っていた同胞や日本人、朝鮮学校児童・生徒たちの顔には落胆の色が浮かび、その場はしばし静まり返った。
閉廷後、原告側が記者会見を開いた。
丹羽雅雄弁護団長は「一審以上に、行政に追随する判決となった。行政の非常に広範な裁量を認める判決。補助金を出すか出さないかによって政治的・経済的な政策を行政が自由に行えてしまう。高裁判決は、むしろそれを支えるものになっている。決して容認することができない」と怒りを込めて話した。
続いて、大阪朝鮮学園の玄英昭理事長、朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪の長崎由美子事務局長がそれぞれ声明を発表した。
朝鮮学校の保護者である申麗順さんも発言。
「怒りよりも力が抜けた。政治家や自治体に与えられた無制限の裁量権が私の子どもたちの学ぶ権利を侵害している。いかなる理由があっても、どんな国籍を持っても子どもたちは社会と大人たちに守られないといけないのに、朝鮮学校に通う子どもたちにはそれがなされていない。しかし母親としてはここで立ち止まることも諦めることもできず、今後も未来のために保護者全員で心を一つにしながら前に進んでいきたい」
丹羽弁護団長は記者たちからの質問に応えながら、今回の判決の問題について改めて解説した。
弁護団は控訴するにおいて、高裁からの問題意識があった点と地方裁判所で十分な検討が行われなかった点に関する主張を展開している。その一つが、別件である「高校無償化裁判」で下された判決と補助金裁判との間に存在する共通点についてだ。
控訴審の第1回口頭弁論で弁護団は、「教育費の負担軽減を図り、教育の機会均等を確保すること」に趣旨を置くという本質において「補助金」を対象とする本件においても変わるところはないと指摘。
しかし、高裁はこれについて「本件大阪府補助金や本件大阪市補助金は、そもそも学校法人等が補助金の支給を受けることにつき根拠となる法令の存在しない贈与の性質を持つものであるから、支援金とはその性質を異にすることは明らかである。したがって、(中略)その程度や範囲について同様に考えることはできない」と判断した。
丹羽弁護団長は以上のことをかいつまんで説明しながら、「行政が政治外交的な政策判断でお金を出したり出さなかったりして、多大な影響を与えることが自由になる。高裁はそれを一審よりもさらに追認した。政治的な判断に過ぎず、(朝鮮学校側の)権利に関しては一切触れない、そういう控訴審判決だ」と話した。
丹羽弁護団長は引き続き、「1965年に日韓基本条約が結ばれた時、日本政府が朝鮮学校の民族教育は各種学校としても認めるべきではないという趣旨の通達を各自治体に発した。それを跳ね返したのは自治体。朝鮮学校は地域社会を構成する子どもたちの場所であって、日本の教育水準に相当するし、アイデンティティ教育もなされる貴重な場として支えるべきだという風潮が全国で広がった。しかし無償化不指定の動きも相まって、多様性を認め合いながらあらゆる子どもたちの学ぶ権利を守っていこうという自治体の理念がどんどん後退している。その中での今回の判決は、こうした社会状況により加担するものだと思う」と強調した。
玄英昭理事長も、「司法の役割ってなんだろうとつくづく思わされる判決言い渡し。行政を守るための判決。長年積み上げてきたものが一時的なトップの人間によって全て壊された。権利を勝ち取るまで頑張る」と、最後は声を詰まらせながらも上告について積極的な姿勢を見せた。
夕方からは東成区民センターで報告集会が持たれた。雨の降る中、仕事終わりに駆けつける人も多く、約500人が参加した。
長崎由美子事務局長は開会の際、去る3月12日に逝去した大村淳さん(城北ハッキョを支える会・代表)について触れた。
「大村さんは、6年に及ぶ火曜日行動の一番最初からお連れ合いの和子さんと一緒に参加してきた。日本が歴史に向き合ってこなかったことに心の底から怒り、また、朝鮮学校と出会えたことは宝物だと言っていた大村さん。この悔しい判決に共にこぶしを握ってくれている、そしてあのやさしい笑顔で諦めるなと言ってくれていると思う」
続いて、弁護団が登壇し、それぞれ一言ずつ、判決文を読んでの感想についてのべた。
「こちらが主張していることについて一応すべて触れながら、それを一つひとつ潰しているような内容になっていると思う」
「控訴人(原告)の主張すべてに触れてすべてを負かすという趣旨のものだったと感じる。ショックだったが、ある程度予想はしていた。臨むところだと思い、闘い続けたい」
「大阪市は不交付を決定したあとに要綱を変えている、つまり補助金交付のルールをあとで変えた。発言の矛盾を指摘したが、判決には反映されなかった。正直言うと、これで勝てなかったらどうやって勝てるんだろうと途方に暮れている。ただ、最高裁があるのでまたなにかいい知恵を出して闘っていきたい」
報告集会では他にもたくさんの人が壇上で発言。悔しさをにじませながらも、決して諦めずに闘い続けるとの決意を共有した。
オモニたちも力を合わせて行動を続けていこうと力強く呼びかけた。
無償化連絡会大阪の藤永壯共同代表は、「ほとんど居直ったような司法の態度。敗れたのは朝鮮学校ではなく日本の民主主義であり人権意識。そのことをもう一度ここで確認したい。『民主主義』を盾に、国家自らがヘイトをまき散らしている。しかし、こんなことでへこたれていては、朝鮮学校支援の道に私を導いて下さった大村淳先生に申し訳ない。みなさん、阪神教育闘争という厳しい試練を受けながら、その後の民族教育を再建した歴史的な経験を、もう一度かみしめましょう。歴史を踏まえて、いまこそ未来のために最後まで闘い続けましょう!」と発言した。
丹羽弁護団長が閉会のあいさつに立った。
「まだ正式には言っていないが、上告して最後まで闘う。補助金については国が直接定めた法律がなく、行政によって決まる。非情に難しいと分かりながら、断腸の思いで皆が立ち上がった。補助金を利用して民族教育に介入していいのかと。法の世界で最後まで行くというのが第1。第2に、補助金というのは平等性を確保して歴史的存在や弱者に光を当てる趣旨のもの。これを盛り返そうとするなら地域社会を再構築しないといけない。顔の見える関係をどう作るか。これは多数者の責任。そして、同時に議会の中できちんとモノを言う人を私たちの力でつくる。総合的な闘い」。これまで以上に、日本社会と司法に怒りをあらわにした口調でまくしたてた。
「一度負けたとしても絶対にやめないですから。いいですか、いいですね?」、丹羽弁護団長の心強い言葉と最後に見せた笑顔に、会場からは力強い拍手と元気な笑い声が上がった。
参加者たちは「勝利のその日まで」(火曜日行動の終わりに歌われている応援ソング。作詞=許玉汝さん、作曲=大阪朝鮮歌舞団・金和美さん)を合唱し、力強いシュプレヒコールで集会を締めた。(理)