愛知でも、偏見にまみれた判決
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2013年1月24日、愛知朝鮮中高級学校の高級部生徒・卒業生らが起こした国家賠償請求裁判(愛知無償化裁判)。名古屋地裁は昨日、不当判決を言い渡した。
「原告の要求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」。法廷では主文のみが読み上げられ、裁判官らは早々にその場を去った。
「5年間も闘ってきて、こんなにあっけないことになるなんて…。子どもたちや弁護団、支援者の気持ちに全く向き合っていない。本当に憤りを感じる」。朝鮮高校にも差別なく無償化適用を求めるネットワーク愛知(以下、無償化ネット愛知)の原科浩共同代表は、記者会見の場所に向かう道でそのように話していた。
傍聴のために並んだ人数は約500人。県内のみならず日本各地からもたくさんの人が応援に駆けつけ、15時から行われた記者会見にも大勢が参加した。
記者会見ではまず、愛知朝鮮学園声明(学校法人愛知朝鮮学園、愛知朝鮮中高級学校、愛知朝鮮中高級学校父母会による連名)、無償化ネット愛知声明、原告声明の3つが発表された。
続いて、弁護団が声明を発表したあと、弁護士たちがそれぞれの思いをのべた。
はじめにマイクを握った内河惠一弁護団長は、開口一番「判決要旨を読んで、この裁判官は最低の裁判官だということを確認した」とバッサリ。
「判決の書き方がとても稚拙。『不当な支配』という、この裁判で最も大きな問題についても、裁判官は非常に次元の低い、われわれ法律家の仲間としては恥ずかしい内容の解釈をしている。われわれはこの判決にしょげてはいかん。こんなに不当な判決ならば喜んで闘おうという思いを掻き立ててくれるような内容だった」。内河弁護団長の、自信にあふれた言葉によって会場の雰囲気が変化した。
「生徒たちの顔を見ると勝訴を勝ち取れず本当に申し訳ないと感じる」、次に発言した裵明玉弁護士は涙を流しながら判決後の思いを語り、怒りを持って判決内容の解説をした。
今回の判決で大きな要素となったのは被告による「不当な支配」論だ。被告は、愛知朝鮮高校が総聯や朝鮮民主主義人民共和国から「不当な支配」を受けているなどの疑念があり、学校運営の適正性の要件に適合するに至らなかったから、不指定は違法ではないと主張している。裁判所はこれに対して、合理性があるという結論を出した。
裵弁護士は判決文から「朝鮮高校が一般的な後期中等教育や思想的要素のない民族教育を行う機関としての側面と、朝鮮総聯からの不当な支配を疑われる機関としての側面と、両方の側面を有しているということこそが本件の問題の難しさの要因の一つ」との文章を引用しながら、裁判官の判断の問題性を指摘。
「『思想的要素のない民族教育』という言葉の中に、非常に裁判所の偏見を感じる。まるで中立公正な教育がこの世に存在するかのような、またそれを裁判所や文科省が判断できるような書き方。朝鮮学校は、過去の歴史に基づいて、朝鮮民主主義人民共和国の立場に即した教育を受けている。日本学校において、日本の立場に即した社会や歴史の教育を受けることと全く同じであるにもかかわらず、日本で一般的に言われるものと違う内容だというだけで『不当な支配』の認定を結果的にはしている」
また、裵弁護士は重大な問題点として、朝鮮学校の教育内容についての言及が多くあったと解説。「そもそも高校無償化法の審査の過程で、外国人学校の教育については個別具体的な内容は問わないということが繰り返し表明されてきている。しかし被告は、17年7月に大阪無償化裁判で敗訴すると、その後の愛知での口頭弁論で朝鮮学校の教科書を多数翻訳し、『朝鮮学校の教科内容には北朝鮮への賛美的な内容が含まれている』とあげつらってきた。裁判所はこれに対して、『不当な支配があるかないか判断する際には、教育内容も資料にしてもいい』『むしろ教育内容を見ることで外部団体からの支配があるかどうかがよくわかる』という旨の判断をした。これは教育法制事態を揺るがすような内容」と、民族教育への理解どころか法律の解釈を完全に欠いた判決内容を厳しく批判した。
内河弁護団長は、「判決文には、『教育内容が子どもに与える影響力、支配力が大きいことから、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入(例えば誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつける内容の教育を施すような介入)による弊害が顕著であることを考慮すれば』という流れの文章がある。あたかも子どものことを大切に思っているかのような脈絡の中で、結局は民族教育や朝鮮学校の教育に対する問題を指摘しようとしている。非常に論法が素直ではない」と、今回の判決文の特徴について話した。
続いて仲松大樹弁護士も自らマイクをもらって発言。「非常に子どもというものをバカにした発想があると私は感じる。学校でなにか教えられれば、大人がなにか言えば完全に影響されてしまって人格の発展を妨げられる、その程度の存在としか見ていない、その点に裁判所のおごりというものを私は感じる。もう一点、一方的な観念を子どもに植えつけてはいけないと言っているが、この一方的な観念がなにかというのは一義的には決定できないもの。正しい価値観を定めるのは、本件では国になってしまっている。国が認める一定の価値観に基づいて成長するのでなければ、正しい成長とは言えないという発想が前提にあるように思われてならない。子どもと教育に携わる人すべてをバカにした判決だと思っている」と強い口調でのべた。
記者会見では最後に、中谷雄二弁護士が「この判決は裁判長の、裁判官たちの差別と偏見がモロに出た判決。日本社会に蔓延している『北朝鮮』に対する偏見がまともに出てしまった、そして教育基本法という法解釈を誤ってその上に偏見が加わった判決。そのうえ、問題を非常に矮小化している。たかだか11万8千円ではないかと言っているんですよ。いかがですか、これを聞いて。皆さん、怒るべきです。我々はこの判決を絶対に認めない。そして怒りを持って控訴し、控訴審ではこれを覆す。そしていい判決を勝ち取りましょう」と呼びかけた。
判決についての解説を聞きながら、今回の裁判官らは本当に他者への想像力がない人たちなのだなと感じた。弁護団は日本社会に蔓延する「北朝鮮嫌悪感」について様々な角度から話し、一人ひとりが努力しなければ差別や偏見を自然と持ってしまうのだと真摯に裁判官へ伝えてきた。在日朝鮮人と朝鮮学校の歴史、取り巻く環境、背景についても丁寧に教えてきた。そして当事者の生徒たちは自分の口で何度も、差別をやめてほしい、ありのままを見てほしいと訴えてきた。にもかかわらず、そのすべての思いに背く判決。とても悔しかったと同時に、たくさんの人が伝えてきたことが届いていなかったことにショックも感じた。
ブログが長くなってしまったので一旦ここで切り、午後に昨日の報告集会で話されたことを紹介しようと思う。(理)