院内集会「ネットはヘイトにどう向き合うべきか」ー深刻な被害が報告
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〝政府は明確な禁止規定を”
ヘイトスピーチ(以下、HS)解消法施行から2年(6月3日)に際し、「ネットはヘイトにどう向き合うべきか」と題する院内集会が5月30日、東京・永田町の参議院議員会館で行われた。主催は外国人人権法連絡会、のりこえねっとなどの市民団体。解消法施行後も収まることのないデモや街宣。そのベースとなっているネット上のHSを直視しようという目的から行われた。
「インターネットとヘイトスピーチ」と題して発言したジャーナリストの津田大介さんは、ネット上のHSが激化している原因について、2007年にツイッターやフェイスブックが一般で始まり、11年の東日本大震災以降の7年間でスマホが爆発的に普及したことで、情報を気軽に発信できる環境が生まれたこと、文脈や背景を理解せずに情報を流通させる人が増え、ネット上のHSが増加しているとその背景を説明した。
その上で、
①ネットを使って攻撃対象に社会的制裁を加えようとする確信犯
②「面白ければ何でもいい」と情報をよく読まずに拡散する膨大な「中間層」
③ビジネス目的のまとめサイト―この3者の利害が一致しているため、悪質なサイトがなくならない構造的な問題点があると指摘した。
津田氏は、「アクセス数を稼ぐためにHSが量産されている。放置する広告業界の倫理に問題がある」として、「AIなどを使ったヘイト書き込みの判別、欧州のような広告業界への対応、人権侵害を受けた側がプラットフォーム事業者に情報開示請求ができるよう、プロバイダ責任制限法を改正するなどの対応が必要だ」と主張した。
今年1月に成立したドイツの新法「SNS規制法」(ネットワーク貫徹法)について解説した金尚均・龍谷大学教授は、「日本との違いは違法な表現として規制している点。差別投稿の通報から原則24時間以内に削除、そのための設備を整えない場合に、企業には最大5000万ユーロ(約64億円)と責任者個人には500万ユーロ(約6億4000万円)の制裁金を科している。また、本法に伴う通信媒体法の改正に伴い、本法に含まれる違法な内容に関係する個人の人格権侵害を理由とする訴訟を提起する場合、ホストプロバイダと接続プロバイダの双方は情報発信者の個人情報を提供してよく、これにより被害者の情報開示請求のための労力を減らすことができる。人格権を侵害された個人が訴訟に使えるよう意図した法律でもある」とその意義を強調した。
また、日本では京都朝鮮第1初級学校へのヘイト街宣の映像が現在も見られる「二次被害」が進行中だとして、「違法な電子情報に特化した刑事規制が考えられるべきだ。発信者情報の開示請求について新たな法改正をすべきだ」と主張した。
HS解消法の対象外となっている被差別部落に関するネット被害を報告した、川口泰司・山口県人権啓発センター事務局長は、悪質な「全国部落調査」が出版され裁判を闘っていることや、Yahoo!知恵袋で、ベストアンサーの7割が差別回答に満ちているなどの現状を伝えながら「デマと偏見に満ちた情報がネット上にあふれ、そのニュースが拡散していくなかで、部落差別が助長されている」と危機感を表明した。川口氏は、国や行政が実態を調査するネットパトロールを行い、立法事実を集約し、削除基準の策定を急ぐべきだと主張した。
集会では、有田芳生、福島瑞穂参議院議員らが参加。有田議員は、「ヨーロッパ並みに対応できるようネット対策の法律制定に超党派で取り組みたい」と語った。
また、在日コリアンの崔江以子さんをツイッターで攻撃した者が脅迫容疑で書類送検された件について師岡康子弁護士が報告した。
集会ではアピールが採択され、「ネット上のヘイトスピーチは改善される様子はまったく見えない、総聯中央本部の銃撃事件が生じた際には政府から何の言及もなかった」として、政府がネット上のHSの実態調査を行い、明確な禁止規定を伴った法律を制定するなど国や地方自治体に以下、5項目を求めた。
1.政府はネット上のヘイトスピーチについて速やかに実態調査を行い、専門家による第三者機関の設置など具体的な条項を含む、明確な禁止規定を伴った法律を制定すること
2.政府および自治体は、悪質な差別的書き込みを行った者の情報を公的機関が開示できるような法整備を行うとともに、サイト運営者等が自主的に定めているルールを確実に履行するよう促すこと
3.政府および自治体は、連携してネット上の差別的書き込みのモニタリングを定期的に行い、必要に応じてサイト運営者等に対して削除要請を行うこと
4.政府および自治体は、自身が管轄するウェブサイト等への差別的書き込みに対して必要な対応が行えるよう具体的な基準を作成し、明示すること
5.政府および地方自治体は、ヘイトスピーチに関わる事件のうち、とくに悪質かつ影響の大きいものについて、公的発言などを通じてそれらを許さない姿勢を明確にすること
解消法はできても、ネット上のヘイトスピーチは減るどころか増える一方で、根絶にはほど遠い。まずは上記5項目のように、日本政府や自治体が根絶にむけ、本腰を入れるべきだと痛感した。
深刻な現状に、中高生、子どもたちへの影響を考えずにはいられなかった。(瑛)