驚異的な朝鮮のマスゲーム、その作られ方
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9月7日の私のブログ(https://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/f384c9b7cd681c4c54a53d650daa7824)で、朝鮮民主主義人民共和国創建50周年の際に現地で取材した時の思い出を綴った。1998年9月3日にマスゲームのリハーサルを取材したということも書いた。朝鮮のマスゲームは世界的に有名で、緻密さや一糸乱れぬ動きのすごさなど、その質の高さは驚愕そのもの。マスゲームはどのように作られているのか。今回は朝鮮のマスゲームについて当時の取材の内容を簡単に紹介したい。
いま行われている「輝く祖国」は、大マスゲームと芸術公演ということで、マスゲームと芸術公演を合体させたより総合的で豪華な公演となっていて、単純なマスゲームとは違う。なので、以下、紹介するマスゲームとは内容が違う部分があるだろう。また、20年前の取材なので、今はどうなっているかもわからない。さらに、20年前のマスゲームは金日成競技場で行われたが、今回はメーデースタジアムで行われている。金日成競技場は一般のスタジアムだが、メーデースタジアムは背景台がマスゲームをしやすいように、席が平面に近く配置されている。そういうことを頭に入れて読んでもらいたい。
1998年9月3日、金日成競技場に取材に行き、マスゲームについていろいろと話を聞くことができた。
マスゲームの出演者は大きく、いろんな場面を描き出す背景台(背景隊)とフィールドで演技する部隊の2つに分けられる。20年前の背景隊は全員で1万2000人、フィールドで体操をするのが3万8000人、合計5万人の子どもたち(日本でいう小中高校生)が出演していた。今回の「輝く祖国」では、背景隊の人数が1万7490人だと朝鮮新報は伝えている。
20年前、背景隊を構成している巨大な長方形の、縦が何人で横が何人かと質問すると、それは秘密だと言って教えてくれなかった。金日成競技場は普通のスタジアムなので客席は当然のことながら湾曲しており下段と上段では座席数も異なる。単純に縦何列、横何列というふうになっているのではない。湾曲や座席数の違いなどを計算にいれて、なおかつ中央正面からみると平面な長方形の絵に見えるようにするための誰にも言えない秘訣があるのだという。下段、中段、上段、そして横と中央で、子どもが持っている一枚一枚の本(絵のひとかけら)の大きさも微妙に違っているらしい。それらをコンピュータですべて計算して作っていると言っていた。
背景隊への指示は正面上の電光掲示板で数字を表示し(その数字のページを開く)、赤いランプを点滅させることによって準備をさせる。同時にマイクで「準備、1、2、3」と言うことにより「3」のときに一斉に本を広げるのである。そのときにマイクで「右から広げろ」「左から広げろ」と合図すると右から順次広げて行ったりする。マイクは背景隊の座席のあちこちに70ほど設置されており、子どもたちはマイクの声と電光掲示板の指示で統一した行動をおこすのだ。
ケソン高等中学校の女の子に手に持っている本を見せてもらった。拡げると縦80センチ、横100センチほど、分厚さは10センチ以上あったと記憶する。本のページごとに付箋のようなものが付いていて、数字が書いてある。それを見て広げるのである。フィールドで演技する子どもたちは音楽に合わせて動作を起こす。
本番では、始まる前に背景隊の子どもたちが学校ごとにデモンストレーションをするのだが、そのデモだけで観客は圧倒される。サッカーの場面、選手がシュートするとボールが飛んでいきキーパーの手をかいくぐってゴール。そんな場面を背景隊は描くのだ。それほど緻密で水準が高い。次の動画で実物の一部を見てもらいたい。
時事通信社の大マスゲームと芸術公演「輝く祖国」の映像https://www.youtube.com/watch?v=DhurHN_znoo
99年9月号の月刊イオに掲載した記事には次のように書いている。(トップ写真)
「一人ひとりが背景版という大型の本のようなものを持っている。各ページに色が塗られていて、前方の電光掲示板の数字に合わせて開けることにより、図柄を浮き上がらせる。描き出す図柄は260カットにもなる。本番が近づくと緊張するのかと思いきや、そこは子どもたち、笑顔を見せて隣同士でふざけ合うなど結構リラックスしている。マスゲームは大きな国家行事の度におこなわれるが、出演するのは1回きりとのこと。子どもたちにとっても一生の思い出だ。本番はミスのない完璧なできで、祖国の建国50周年をみんなが祝った。」
9月に平壌で行われた北南首脳会談はサプライズの連続だった。その際、文在寅大統領をはじめ韓国の代表団のメンバーがマスゲームを観覧した。どのような感想をもったのだろうか、気になる。そして私も久しぶりにマスゲームを観覧したい。(k)